ハラスメント対策最前線ハラスメント関連の判例解説(35)

違法行為の命令とパワハラ

難解な裁判例もわかりやすく解説!成蹊大学法学部教授 原 昌登 先生による「職場におけるハラスメント」に関する裁判例の解説です。
ハラスメントを未然に防止する観点から必要なことを、実際の裁判例をもとに考察し、企業におけるハラスメント対策の一助となることを目的とする連載です。
裁判例を読み解き、どのような言動がハラスメントと扱われるのか、そして企業はどのように対応すべきであったのかなど、企業のハラスメント対策上の学びやヒントをご提示しています。ぜひ企業でのハラスメント予防にお役立てください。
※裁判所の判断の是非を問うたり、裁判所の見解に解釈を加えたりするものではありません。
※凡例 労判○号○頁:専門誌「労働判例」(産労総合研究所)の該当号・頁

これまでの「ハラスメント関連の判例解説」はこちらをご覧ください。
ハラスメント関連の判例解説new

今回の記事で参照した裁判例は、O市事件・大津地判令和6・2・2 LEX/DB25597826です。

【テーマ】違法行為を強要することも、パワハラに当たります。

1.概要

今回は、上司が部下に対し、労働者派遣法に違反する違法行為(いわゆる偽装請負)を命令したことが、パワハラであり不法行為に当たるとされた事例を紹介します。パワハラ6類型「以外」のパワハラが認められた点が注目されます。

2.事案の流れ

Y市の職員Xは、Y市教育委員会の生涯学習課で勤務しており、課長のAはXの上司でした。Y市は、人権・生涯学習推進協議会連合会(以下、連合会)に、人権・生涯学習推進事業を「業務委託」として委託しました。しかし、連合会の職員だけでは業務の処理が困難であったことなどから、連合会の臨時職員の募集・採用を生涯学習課の職員が行い、そこで採用されたCの指導はXが行うなどしていました。
なお、「業務委託」は、細かい法律上の規制が存在しない反面、基本的なルールとして、仕事を委託する側(Y市)が受託する側(連合会)の職員等に対し直接的に指示や指導等を行うことは、認められていません。指示や指導等を行うのであれば、それは業務委託ではなく「労働者派遣」に該当することになり、労働者派遣法の細かい規制を受けながら実施しなければならないということです。したがって、XがCを指導するのは労働者派遣法に違反する行為であり、一般に「偽装請負」と呼ばれています(労働者派遣ではなく業務処理「請負」であると「偽装」するので、偽装請負です)。今回は実態が労働者派遣(Cが連合会からY市に派遣されてXから指示等を受けている形)になるのに業務委託と扱っているので、「偽装業務委託」といえるかもしれませんが、裁判所は一般的な「偽装請負」という表現を使っているので、本解説も判決に合わせることにします。
Xは、下記3のように課長のAが自分に違法行為を命令・強要したことなどについて、Aの使用者であるY市に損害賠償を求めました。なお、Xの主張は多岐にわたり、訴訟ではほかにも関係者が出てきますが、以下ではAのハラスメントの問題に絞って紹介します。

3.ハラスメントと主張された行為

Xは、Cに対し仕事の指示や指導等を行っていることが、違法行為(偽装請負)に当たることを懸念し、Aに伝えます。しかしAは、「Cさんは、連合会のことはなにもわからない…Xが全部教えてあげること。Cさんに仕事の指示をしてください。」「XがCさんに教えるんや」などと述べて、XにCへの仕事の指示や指導等を命令しました。Xは、こうした違法行為の実行を強要することがパワハラであり、違法であると主張しました。

4.裁判所の判断

裁判所は、まず、公務員に対する仕事の命令(職務命令)も、違法であることが明白であり、それに従えば違法な行為を行う結果となるような場合は、命令として違法であることを確認しました。
その上で、Y市の職員が連合会の職員へ仕事の指示等を行うことは、「偽装請負の実行行為そのもの」であり、労働者派遣法に反する違法行為であって、そのような違法行為を命じるAの職務命令も違法であるとしました。そして、上記3のAの発言は、職務上の優位性を背景に、違法行為の実行を命令するものであり、ハラスメントとして違法であると判断します。結論として、Aが公務員であることから、国家賠償法という法律に基づき、Y市にXに対する慰謝料の支払いを命じました。

5.本件から学ぶべきこと

本件では、上司が偽装請負という違法行為の実行を部下に命令したことが、パワハラに当たるといえるかが争われました。違法行為の命令・強要がパワハラに当たるか否かが裁判で争われたのは本件が初めてであり、注目されます。
特に、従来からパワハラ指針等で用いられている「パワハラ6類型」(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)に直接的にあてはまるとはいえない、その意味で新たな類型のパワハラを認めた点が、実務的に大きな意味をもつと考えられます。
確かに、違法行為の実行を強要されれば、それは精神的な悩みや不安にもつながりうるので、6類型の「精神的な攻撃」に近い面もあるといえるかもしれません。しかし裁判所は、無理に6類型にあてはめるのではなく、上記4のように、違法行為の強要がパワハラに当たる旨を端的に述べています。
6類型の内容をしっかりと理解しておくことが、パワハラ対策を進める上で不可欠とはいえますが、「6類型以外にもパワハラはありうる」ことを、本件を通して確認しておきましょう。また、社外のフリーランスに対し、報酬の支払いを正当な理由なく拒んだこと、つまり、経済的な不利益を与えたことをパワハラと判断したA社ほか事件(「フリーランスに対するハラスメント」)も、6類型以外のパワハラの1つです。あわせて見直しておくといいかもしれません。
なお、本件ではY市による業務委託のあり方が問題の発端となっています。本件ではXが違法性に気付いていましたが、法的な知識・理解が十分でなく、違法と知らずにXのような行為(委託先の労働者への指導・指示等)に至る例もあるようです。労働者派遣や業務委託に関する基礎知識を、あらためて確認することも重要といえます。

(2025年4月)



プロフィール

原 昌登(はら まさと)
成蹊大学 法学部 教授
1999年 東北大学法学部卒業
専門分野 労働法

著書(共著)

労働法の分かりやすい入門書(単著)として、『ゼロから学ぶ労働法』(経営書院、2022年)、『コンパクト労働法(第2版)』(新世社、2020年)。ほか、共著書として、水町勇一郎・緒方桂子編『事例演習労働法(第3版補訂版)』(有斐閣、2019年)など多数。

公職

労働政策審議会(職業安定分科会労働力需給制度部会)委員、中央労働委員会地方調整委員、司法試験考査委員等。
ほか、厚生労働省「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」委員(2017~2018年)等も歴任。

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