ハラスメント・インサイト企業の成長につながるハラスメント対策とは~企業の存続を左右するハラスメント問題

企業の成長につながるハラスメント対策とは~企業の存続を左右するハラスメント問題

『ハラスメント・インサイト』は、厚労省や人事院のハラスメントに関する委員会メンバーを歴任してきた弊社取締役・稲尾 和泉による連載です。
今日、人権やジェンダー、雇用形態、雇用環境、経営問題、心理、人間関係など様々な問題と複雑に絡み合っているハラスメント問題に関するインサイト(洞察)を読み解き、今、職場づくりで求められていることを、ハラスメント対策の切り口として示して参ります。

企業の存続を左右するハラスメント問題

昨今の報道から

この1年はハラスメント事案が話題にならない日はない、と言ってよいほどさまざまな問題が浮き彫りにされてきた。
民間企業のみならず、政界や行政機関でのハラスメント問題は大きくマスコミで取り上げられ、組織のトップが頭を垂れる姿を何度見たか分からない。

その中でも群を抜いて注目を集めたのは、自社社員が受けた性被害に対する企業の対応であろう。この問題は、有力な取引先との関係で引き起こされたカスタマーハラスメントであり、かつ、性被害レベルの深刻なセクシュアルハラスメントであり、企業が行うべきハラスメント関連法上の措置が不十分であったことが浮き彫りにされた。
さらに、これらの問題に対する経営陣の認識の甘さも露呈し、経営基盤の根底が揺らぐ事態にまで発展した。

一方で、大企業を中心にハラスメント対策は年々充実しているというデータがある。令和5年の厚生労働省のハラスメント実態調査(図1)によると、大企業1,146社の98.3%が「ハラスメント対策を実施している」と回答しており、相談窓口の設置や教育研修などの基本的な取り組みは行き渡っているように見える。しかし、現実にはひどいハラスメント言動がまだまだ従業員を苦しめているという実態がある。当該企業の第三者委員会報告書を基に、何が問題となったのか確認していきたい。

図1 パワハラ予防・解決の取り組みの実施有無(従業員規模)

第三者委員会の報告書から問題を読み解く

第三者委員会のメンバーは、当該企業と利害関係のない中立的な立場で、社員や当事者に詳細なヒアリング調査を行った上で今回の問題を分析し、報告書にまとめている。

まず、週刊誌等で報道された著名人による性犯罪について事実であると認定し、重大な性犯罪およびハラスメント行為であると断罪している。被害を受けた社員は深く傷つき、自らが健康で能力を発揮する権利を侵害されたのだから、会社としてその社員の救済が最優先であることは言うまでもない。しかし、報告書では「会社が被害者に寄り添わない対応により二次被害を与えた」と明言した。このような対応について「人権侵害の救済、危機管理、ともに杜撰」であるとともに、「ハラスメントに寛容な企業体質で、被害救済も杜撰」「ビジネスと人権の国連指導原則から外れ、救済メカニズムに対する信頼性を損なう」と、厳しい言葉が並んでいる。
断罪されている矛先は、経営陣である。つまり、経営陣こそがその会社に勤めている従業員の「人権を守る」ということの本質を理解していなかった、ということなのだ。

果たして、自社の経営陣が「人権」に対してどれだけの感度をもち、従業員の人権尊重が企業の根幹を支えていることに気付いているだろうか。どの会社でもいま一度確認することが求められている。

人材不足と取引先の撤退

20年以上前から警鐘が鳴らされていたが、日本の生産年齢人口は既に大幅に減少している(図2)。バブル期に聞かれた、「お前の変わりはいくらでもいる」という意識や暴言も、今では全く通用しないほどの人材不足に陥っている。

しかし、このケースでは、「有力な取引先との良好な関係を築くための会合の慣習により、取引先による性暴力・ハラスメントなどの人権侵害のリスクを助長していた(以下、「」内は報告書より抜粋)」と指摘されている。結果、被害者の退職を招いてしまった。その意味でも、今回の出来事を機に将来の会社を担う人材の確保が困難になっていく可能性も高まる。
さらに、経営陣の記者会見でも、「客観的な調査と説明責任を果たそうという意識が乏しい」と指摘されてしまった。そのことが「社会的信用を大きく失墜しステークホルダーの離反を招いた」ことは言うまでもない。

このように、報告書では「ハラスメント問題が企業経営にも重大な影響を与えるリスクがあったにもかかわらず、リスク管理の体制整備が不十分」で、「取締役会によるガバナンスが機能せず、指名・報酬・監査というガバナンス機能も不十分」と、経営陣の意識や企業経営に対する責任感のなさまで言及されている。現場で働く従業員がどんなに日々懸命に勤めていても、これでは報われない。ハラスメント問題への真摯な対応を経営陣が怠れば、企業の存続をも危ぶまれる時代なのである。

日本の人口は近年減少局面を迎えている。
2070 年には総人口が 9,000 万人を割り込み、高齢化は 39%の水準になると推測されている。

図2 日本の人口の推移

経営陣こそ本気で取り組む姿勢を示すべき

昨今、組織のトップ層の認識が世の中の変化に追いつかず、大きなハラスメント問題を引き起こしていることが散見される。そのような組織では問題が起こっても、懲戒処分などを決める懲罰委員会などで、トップ層が「あの人は会社に貢献してきた人だから」「悪い人じゃない、そういうキャラだから」などと、ハラスメント言動を許容するような発言をしてしまうことがあり、その結果、処分が下されなかったり、「被害者にも問題があるのでは」という二次被害を引き起こしたりする。人権救済が適切になされないことで、現場の従業員は「どうせ会社に訴えても解決しない」とあきらめてしまい、重大なハラスメント言動やコンプライアンス問題が埋没してしまう。今回の問題は、いみじくもそれを証明してしまった。

企業経営のかじ取りを行う経営陣は、ハラスメント問題への毅然とした対応を従業員に宣言し、自らがハラスメント言動をしないだけでなく、問題が起こった際の人権救済と職場機能の回復を約束する宣言を、早急に実施するべきである。
この機会に、ハラスメント対策の基本に立ち返り、いま一度従業員が能力発揮できる職場環境を整備することが求められているのだ。経営陣こそが本気で取り組む姿勢を示すことが、会社の健全な成長につながることを肝に銘じてほしい。

  • ※この記事は、弊社取締役 稲尾和泉 による中央労働災害防止協会の月刊誌「安全と健康」(2025年7月号)への連載を許可を得て全文掲載しております。

2026年2月

その他の記事

フォームからのお問い合わせ

お問い合わせ