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ハラスメント対策最前線職場のダイバーシティ(5)
トランスジェンダーへの理解を深め、偏見克服を
- Qトランスジェンダー(以下「TG」と略す。「性同一性障害」など)の人々は、職場などで様々な差別やハラスメントを受けているようですが、どのようなものでしょう。どうしたらよいでしょうか?
- A職場ではTGの人々に対する偏見に基づいたさまざまな差別やハラスメントが起こっており、その一端を裁判例で見てみましょう。
職場における「究極の差別・ハラスメント」である解雇として、次の例があります。 旅行ガイドブックなどを発行している昭文社に勤務していた会社員(30才代)は、平成12年に性同一性障害の診断を受け、「女性として働きたい」と訴え、女装や女性トイレの使用を求めたものの、会社側から拒否されたことから、女装で出勤したところ、会社は社員や取引先顧客が強い違和感や嫌悪感を抱き、職場秩序を乱したとして、会社員を懲戒解雇した。裁判所は、会社が混乱を避けるため会社員に対して女装をしないよう求めたことには一理あるとしつつも、会社員が「女性としての行動を抑制されると、多大な精神的苦痛を被る状態」にあり、これに対して会社は従業員らの「理解を図ることにより、時間の経過も相まって(このような違和感や嫌悪感を)緩和する余地が十分にある」として、懲戒解雇を無効とする画期的判決を下したのです(東京地決平14年6月20日決定)。 このような判決の影響もあって、前回述べたように、平成16年性同一性障害特例法が施行されましたが、その後も次に述べるように今日までさまざまな裁判が起こされています。
経産省の職員(40才代)は、性同一性障害の診断を受け、女性として勤務することを職場に求め、女性更衣室を使用することは可能となったものの、女性トイレについては、職場側から「戸籍上男性のままでは使用できない」と言われたうえ、人事異動に際しては、性同一性障害であることをカミングアウト(表明)するよう求められ、更に処遇についての話し合いで「手術ができないなら、男に戻ってはどうか」等とハラスメントを受けてうつ病となり休職したとして、平成27年、行政訴訟と国家賠償訴訟を提起しています。
民間会社に勤務する性同一性障害の会社員が、家裁で戸籍を男性から女性に変更することを認められたことから、会社に対して、従来通り男性名を用いて女装して働きたい旨申入れたものの、会社から一方的に名札などを女性名に変更のうえ、他の従業員にその旨カミングアウトするよう要求されたことから、うつ病を発症して休職したとして、平成28年会社に損害賠償を求めているケースがあります。
このように、
今日、トランスジェンダー(TG)をめぐっては、これらの人々が偏見から職場においてさまざまなハラスメントや差別に苦しんでおり、ダイバーシティーの実現のためには、TGに対する偏見の克服が大きな課題となっており、そのためにはTGに関する理解を深めることを通して、偏見を克服していく努力が求められています。
(2017年8月)
水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業
「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)
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