ハラスメント対策最前線職場のダイバーシティ(8)

無知に基づく差別を許さない

Q最近国会議員の一部などから「同性愛は趣味みたいなもの」とか「同性愛のカップルは子供を作らないから生産性が低い」などという発言が相次いでいますが、どのように考えるべきでしょうか?
Aこのような発言は、誤解と無知に基づく性的少数者に対する差別発言であると共に、結婚や出産が個人の自己決定に基づくことを否定する暴言です。

1.「性的指向」と「性的嗜好」との違い

そもそも「性的指向」と「性的嗜好」は呼び方は同じですが、全く意味の異なるものです。LGBTは、L(レズビアン)G(ゲイ)B(バイセクシャル)T(トランスジェンダー)の略語であり、LGBは性的指向(Sexual Orientation)を、Tは性自認(Gender Identity)を意味しており(第4回参照)、同性愛(L、G)や両性愛(B)を意味するLGBは「性的指向」に関するものであり、いずれの性別を恋愛や情愛の対象とするかという、人間の基本的な性傾向を指し、一般に異性愛、同性愛、両性愛に分類されており、大半の人々は異性愛者とされています(これ以外にも性的指向を持たない無性愛もある)。
これに対して「性的嗜好」は、性的対象や行動において、その人固有の好みやこだわりがあることを指し、いわゆるフェチ(筋肉フェチ、脚フェチなど)やロリコン、マゾ、デブ専、細マッチョ、巨乳など様々な例が挙げられます。
要するに、性的指向はどの性別を恋愛や結婚の対象とするかであり、性的嗜好は何に対して性的興奮するかを意味しているのであり、このことは、異性愛者(大半の人々)に対して「異性愛は趣味みたいなもの」という人が皆無であることからも明らかです。
特に自分の性別に違和感を持っているトランスジェンダーは、その違和感を解消するために、心の性に合わせた容姿で生活をすることから、これに対して趣味や性的嗜好で行っていると勘違いされ、同性愛者や両性愛者に対しても同様のことが起こるのであり、このような無知に基づく誤解により、心ない言葉を投げつけて当事者を苦しませることのないようにしていく必要があります。

2.「生産性が低い」?

「子供を作らない、つまり生産性がないのだから、行政サービスなどに税金を使うべきでない」という発言がLGBTを差別し、とんでもない暴言であることは明らかです。そもそも子供を産むかどうかは、LGBTに限らずあらゆるカップルのさまざまな事情で決まることであり、上記発言は子供を産まない、産めない全てのカップルの人権を否定する侮辱的なものであり、また同性以外のLGBTカップルは出産が可能であり、LGBTに対する無知に基づく発言でもあります。
このような発言は、性的マイノリティにとどまらず、人の能力に優劣をつける「優生思想」にもつらなるものであり、かつてナチスドイツは、ユダヤ人をはじめ、同性愛者、障害者、アルコール依存症、遅刻・無断欠勤常習者、交通法規違反者などを「国家の穀潰し」とみなして収容所に送ったのです。ダイバーシティーを推進するためにも、LGBTへの差別を許してはなりません。

(2018年8月)



プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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