ハラスメント対策最前線職場のダイバーシティ(9)

出産・育児等と仕事の両立

Q介護・育児による時短勤務や高齢者雇用・障害者雇用の問題は、法律ではどのようなアプローチにより改善を図れるのでしょうか?
A育児・介護などと仕事との両立を図るのための制度(いわゆるワーク・ライフ・バランス)や、高齢者や障害者の雇用促進のための制度は、現在我が国ではさまざまな形で整備されてきています。今回はまず、出産、育児等と仕事の両立に関する制度について述べてみましょう。
Q出産・育児等と仕事の両立を図る制度の内容はどのようなものですか?
A労基法、均等法、育児・介護休業法(育介法)などにより、特に出産・育児の負担が重い女性労働者の働く環境を整備するために図のような規制がなされ、使用者がこれらの規制に違反した場合は違法とされます。

<図表>
Qそれでは出産・育児等を理由とした時短勤務の具体的内容はどのようなものですか?
A 「時短勤務」という言葉は法律用語ではなく、法律(育介法)では「短時間勤務」「所定労働時間の短縮」などと言われていますが、どれも時短勤務と同じ意味です。同じ時短勤務でも、育児と介護では少し内容が違い、子供の年齢によっても差があります。

(1) 3歳未満の子の育児に関する短時間勤務
子供が3歳までの時短勤務やそれに変わる措置は、どの会社に勤務する労働者でも利用できることが、法律によって規定されています。
  • 事業主は3歳未満の子を持つ労働者のために短時間勤務制度を設けなければならない。短時間勤務制度は、1日の労働時間を原則6時間にするという規則を含む
  • 短時間勤務が難しい場合は、それに代わる以下のような措置を取らなければならない。
    ①フレックスタイム制
    ②始業・終業時刻の繰り下げ・繰り上げ
    ③保育施設の設置運営等
  • 労働者からの請求があった場合、残業をさせてはならない
  • 事業主はこれらの制度があることを対象となる労働者に知らせる努力をしなければならない。事業主は、未就学児を持つ労働者が育児に関する目的で取得できる休暇制度(子の行事のための休暇等)を作る努力をしなければならない
(2) 3歳から小学校就学前の子の育児に関する短時間勤務
  • 事業主は、3歳から小学校就学前までの子を持つ労働者のためにも短時間勤務制度等、必要な措置を取る努力をしなければならない。事業主は、1か月につき24時間、1年で150時間を超える残業をさせてはならない
(3) 介護に関する短時間勤務
  • 事業主は介護を要する家族を持つ労働者に対して、連続する3年間以上の期間、以下のいずれかの措置を講じなければならない。
    ①所定労働時間の短縮措置
    ②フレックスタイム制度
    ③始業・終業時刻の繰下げ・繰上げ
    ④労働者が利用する介護サービス費用の助成またはそれに準じる制度。その措置は、2回以上利用ができるものにしなければならない
  • 介護が終了するまで残業が免除される
尚、この場合時短だけでなく、途中に介護休業をはさむなど、休業制度と組み合わせて利用することも可能です。
Q時短勤務をするのは女性というイメージですが、法律の中に女性と限定する文言はないですね。男性もこの制度を利用できるのですか?時短勤務になると、賃金はどうなるのですか?
A男性も時短勤務が可能です。男性も当たり前に育児をする世の中になるよう、国も政策に力を入れています。しかし、法律上は賃金に関しての定めがなく、時短勤務中は減給となる会社がほとんどですので、会社に交渉して、可能な限り給与支払いを求めるべきです。
Q短時間勤務を利用できない人とは?
A育児や介護をしながら働く方は、短時間勤務制度を利用できることが法律で決められていますが、以下に述べる一定の要件を満たさない人は、法律上は時短勤務が保障されていません。
  • 日雇労働者
  • その事業に継続して雇用された期間が1年に満たない労働者
  • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  • 事業の正常な運営を妨げる場合
正社員はもちろん、派遣やパートの方も短時間勤務制度を利用できますが、週に3日以上の勤務を継続して1年以上続けていることが条件となります。
Q時短勤務は労働者の請求が必要ですか?
A労働者が請求することが前提です。育介法により、会社は3歳未満の子や要介護家族のいる労働者からの請求に応じて、短時間勤務かそれに代わる措置を取らなければならないことが定められています。ただし、会社独自の時短制度があるケースもありますので、仕事との両立を目指したい方はぜひとも自分から会社側に相談してみましょう。
Qいわゆるマタハラのようなことが、時短勤務をしている人にも起こりえます。時短勤務をするのが心苦しい人も多いと思いますが、何か対策はありますか?
A平成29年10月1日施行の改正育介法では、マタハラ等の防止措置義務が新たに付け加えられました。時短勤務についても、それによる不利益や嫌がらせがないよう会社が気をつけなければならないわけです。 ダイバーシティー実現のためにも、ワーク・ライフ・バランスを推進することが求められています。

(2018年12月)



プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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