ハラスメント対策最前線コロナパンデミック・DX時代の雇用と法律問題(1)

コロナ禍のハラスメント対応

QAさんはパートの看護師で働いていますが、用事で東京へ行ったことを伝えると、病院の職場の上司から「コロナ菌をまき散らすので来るな」と言われてしまいました。患者さんからも同じことを言われてしまいますが、どうしたらいいでしょう。
A上司にパワハラであることを指摘して是正措置を求める必要があります。患者からの発言も同じです。

1.「コロナ禍」とエッセンシャルワーカー

コロナパンデミックとDX(デジタル・トランスフォーメーション)が同時に出現している今日、とりわけコロナ禍は私達の社会と働く現場に深刻な影響をもたらしており、特に医療や介護・福祉などの「ケア」労働に従事するいわゆるエッセンシャルワーカーは、日々感染リスクと最前線で闘うと共に、職場ではハラスメント被害のリスクにさらされてもいます。

2.ハラスメントと使用者の雇用管理上の措置

改正労働政策推進法(「パワハラ防止法」2019年成立、2020年6月施行。2022年4月から中小企業を含め全面施行)は、いわゆるパワハラを①「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって」、②「業務上必要かつ相当の範囲を超えたものにより」、③「労働者の就業環境を害するもの」と定義し、指針ではさまざまなパワハラの類型を例示しています。特にQで示した職場の上司や顧客等からのパワハラ行為は、パワハラ防止法が規制する言動そのものであり(図表参照。2020年4月21日連合通信より)、これらのハラスメント行為に対して、使用者は防止義務を負っているのです。

図表 コロナを理由にしたハラスメントの相談事例

3.上司のパワハラへの対応

これらのハラスメントに関して、被害を受けた部下は、パワハラやいじめの被害にあったら、日時、場所、どのような被害にあったか、具体的な状況をできるだけ詳細にメモし、その上で自分がどのように感じているかを説明し、相手に行為をやめるよう要求し、口頭で申し入れても効果がない場合は、文書で行い、いじめが行われていたこと、やめるように要求したことの証拠とすることも考えられるでしょう。 嫌がらせの一つとして「仕事を与えられない」場合は、常に業務を行える状態を整え、指示の内容を確認するなど働く意欲があることを対外的に示す必要があるでしょう。嫌がらせとして「仕事の指示を変更する」といったこともあるので、後で「言った」「言わない」ということにならないために、録音やメモをとっておくべきで、その上で(外部)相談窓口や弁護士などに相談するべきでしょう。

4.顧客からのパワハラ対応

また、顧客からのいわゆる「カスタマーハラスメント」については、パワハラ防止法指針で、事業主が、顧客等からのパワハラに対し行うことが望ましい雇用管理上の配慮として、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、被害者への配慮のための取組、こうした行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことなどを求めていますので、事業主に対して、上記指針に基づいた措置を求めましょう。 使用者には、労働者がその生命身体等の安全を確保しつつ働くことができるよう、環境整備する義務が課せられており(労働契約法5条)、労働者に対する安全配慮義務として、上司や顧客からのハラスメント対策のための具体的な体制整備をする必要があるのです。

(2022年1月)

プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

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