ハラスメント対策最前線風通しの良い職場づくり -CSR活動の一環として-(6)

CSRと労働慣行

「ブラック企業」「ブラックバイト」といった言葉に象徴されるように、長時間労働、ハラスメント、労働災害などの労働問題には社会からの厳しい目が向けられています。

ISO26000では、社会的責任に関する7つの中核主題として ①組織統治、②人権、③労働慣行、④環境、⑤公正な事業慣行、⑥消費者課題、⑦コミュニティへの参画およびコミュニティの発展が示されており、③労働慣行には、職場の安全衛生、雇用機会・多様性の確保、公正な評価や能力開発、ワークライフバランスなど幅広い内容が含まれます。

従業員が安心して働ける職場づくりは、コンプライアンス、CSR、リスクマネジメントの観点から不可欠ですが、働く人のモチベーションや組織の生産性にも重大な影響を与えます。

今一度、CSRの土台としての職場環境に目を向けてみましょう。

ESRなくしてCSRなし

マズローの欲求五段階説(生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・尊厳欲求・自己実現欲求)では、低階層の欲求が満たされると、より高階層の欲求を欲するようになるということが言われています。長時間労働で毎日寝不足の状態、あるいは社内で仲間に無視されメンタルヘルス不調など、人間としての根源的な欲求が満たされていないときに、高い目標にチャレンジする、チームのために仕事をするといった欲求を持つことは困難です。

しかし、組織内での取り組みを拝見していると「低階層の欲求はすでに満たされているもの」とみなし、高階層の欲求部分にだけ対応しようとしている例が見受けられることがあります。

人としての根源的な欲求(生理的欲求・安全欲求)が守られているかを再確認し、低階層から優先順位をつけて職場環境問題に取り組むことにより、ESR(Employee Social Responsibility)が育まれ、全社的なCSRにつながっていくのではないでしょうか。

労働安全衛生に日々目を光らせていますか?

仕事中の安全確保、過剰労働の防止やメンタルヘルス増進の取り組み、社内いじめなどの徹底的排除といった、身体・精神両面で安心して働ける環境をつくるには、「日々労働安全衛生をしっかり守っていく」という姿勢やリーダーシップの発揮が大切です。今一度、下記のような手順で土台の点検をしてみませんか?

Ⅰ 「どのような職場環境が理想か?」についてのビジョンづくり

Ⅱ 「働いているひとたちの労働環境についての現状把握 (アンケート、インタビュー、現場周回など)

Ⅲ 改善すべき点の洗い出し

Ⅳ 現在できていることに関して、継続の仕組みが確立されているかのチェック

Ⅴ 改善点についての是正措置と日々の注視

「会社に大切にされている」という感覚を持っている従業員は、お客様や取引先など、他のステークホルダーのことも尊重できるようになります。 また、リテンション(従業員の定着)という観点からも職場環境問題の改善は急務です。

従業員が安心して能力を発揮できる企業を目指すことは、決してそこで働いている人たちだけに影響を与えるのではなく、お客様や取引先など広範囲のコミュニケーションや生産性に波及するということ、 「土台の部分だからこそ怠らない」という意識を持って継続的な取り組みを進めていきましょう。

(2014年9月)

プロフィール

村松 邦子
経営倫理士

株式会社ウェルネス・システム研究所 代表取締役
筑波大学大学院修士課程修了(人間総合科学)

経歴

グローバル企業の広報部長、企業倫理室長、ダイバーシティ推進責任者を経て独立。
「健幸な社員が健全な組織をつくる」をテーマに、人財組織開発と連動したダイバーシティ、企業倫理、CSR推進の支援・普及に取り組んでいる。

著書(共著)
「人にやさしい会社~安全・安心、絆の経営~」(白桃書房、2013)
「三方よしに学ぶ 人に好かれる会社」(サンライズ出版、2015)

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