ハラスメント対策最前線経営倫理とダイバーシティマネジメント(3)

チームで目指すルール

今回は、ダイバーシティへの取り組みを進めている企業でよく聞かれる悩みである、「ダイバーシティを進めると『何でも有り』と混同されてしまわないか?」ということについて考えてみたいと思います。

職責や仕事の範囲などが予めはっきりしており、職場のルールや規範なども整備されていることが多い欧米企業に比べ、日本企業では、『「会社員として」あるいは「自社の社員として」何が求められ、何をしてはいけないか』ということが明確になっておらず、周知もされていないということが散見されます。

そういった状況においては、「就業中にお祈りをする習慣のある宗教を持つ社員を雇用すると、そうでない社員までもがサボってしまうのではないか?」「一部の育児中の社員にだけ在宅勤務を認めると、他の社員の士気が下がってしまうのではないか?」などの悩みが生まれますし、実際そのような懸念は実現する確率も高いと言えます。

ダイバーシティ経営とは、当たり前ですが、決して「社員のわがままや個人の事情を無目的・無制限に許す」ことではなく、「社員がどのようにすればもっとパフォーマンスが上がり、活躍できるか?」という組織側の理由から始まっているということを忘れてはなりません。その過程で、それぞれの社員の価値観やキャリア、家庭や宗教上など、様々な懸念について払拭するということをしているのです。

ダイバーシティを認めることの先には、必ず組織上の理念や考え方、そして目標があります。それらに共感して集まり、同じゴールを目指している仲間であるということを前提にしない限り、個人個人がバラバラになってしまい、効果を上げることは難しいでしょう。

よって、ダイバーシティを進める際にはインクルージョン(包摂)策が大事になり、その要として下記のようなことが必要になります。

  • ① 能力評価基準の整備
  • ② 企業理念や行動指針、就業規則や服務規程といった会社のルール整備
  • ③ 褒賞と罰則の周知
  • ④ トップのリーダーシップ
  • ⑤ 社員間・経営者と社員間の活発なコミュニケーション

インテグリティの高い社員の育成

上記で述べたルールづくりがあってのことですが、それとは別に、中・長期的な視点から、規範意識が高く、倫理や法律、人権などの基本的なルールを遵守することができる社員を育成することも必須です。採用時から倫理意識の高さを見る、セルフリーダーシップの発揮指向を見るなどの取り組みも始めている企業がありますが、大変良いことだと思います。

現在在籍している社員に向けては、ダイバーシティ理解に関する教育や研修を行い、自分たちが無意識に持っている偏見や差別に気づいてもらったり、自分とは違う属性や価値観を持つ人に対して、嫌悪感や罪悪感を持たずに率直にコミュニケーションを取る方法を学ぶことを促すなどすると良いでしょう。

また、明らかに見た目で分かる違いだけでなく、同じ属性であっても、考え方や価値観に違いがあることは多いものです。タイプ論を使った性格検査である「MBTI」や、行動特性を知る「DiSK」などのツールを使い、「同じだと思っていた」という思い込みから脱するというところから始めるのも一つの手段だと思います。

(2016年6月)

プロフィール

村松 邦子
経営倫理士

株式会社ウェルネス・システム研究所 代表取締役
筑波大学大学院修士課程修了(人間総合科学)

経歴

グ ローバル企業の広報部長、企業倫理室長、ダイバーシティ推進責任者を経て独立。
「健幸な社員が健全な組織をつくる」をテーマに、人財組織開発と連動したダイバーシティ、企業倫理、CSR推進の支援・普及に取り組んでいる。

著書(共著)
「人にやさしい会社~安全・安心、絆の経営~」(白桃書房、2013)
「三方よしに学ぶ 人に好かれる会社」(サンライズ出版、2015)

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