ハラスメント対策最前線経営倫理とダイバーシティマネジメント(5)

ダイバーシティと対立

前回は、無意識に持っている偏見に気づく努力や、率直なコミュニケーションが他者理解や異文化理解には欠かせないというお話をしました。 そのような意識を日頃から持つことはもちろん大事ですが、多様な人たちとの対話がいつも平和裡に進むとは限らず、対立が生まれることもあります。
同質なコミュニテイの中で仕事や生活を長くしていると、相手も自分と同じように考えたり行動しているものと錯覚し、「察し合える」、「何かあっても話せばいつかは分かり合える」といった気持ちになりがちですが、多様な価値観を持つ人が増え、人材のグローバル化が進んでいる昨今では、相手を自分と同質と思い込むことによって、相手を傷つけたり不快にさせる結果になることが少なくありません。
また、対立を「悪いこと」「ない方がいいこと」だと考えてしまうと、以下のような態度や行動につながり、本当の意味で相手と折り合ったり、相互のニーズを満たすということが難しくなります。

  • ① 「相手が従うべきだ」と考え、相手に結論を押し付ける
  • ② 相手の話をまともに聞かない
  • ③ 結論をうやむやにして逃げる
  • ④ 相手を無視し、何もなかったかのように振る舞う等の「受動的な攻撃(passive aggression)」
  • ⑤ 日和見的で一貫性のない一時的な対応(口頭では実行を誓うが、実際には履行しない等)
  • ⑥ 自分自身に忍耐を強いて、欲求を口に出さなかったり、軽視する

コンフリクトマネジメント

意見や利害の対立自体が悪いのではありません。また、列記したようなことが全て悪いというわけではなく、時と場合によっては必要になることもあります。
ただ、相手と長期的に良い関係を築いていきたいと考えるのであれば、利害が対立することはありうるということを前提にし、抑圧でも服従でもないやり方で、利害の衝突を解決する方法を学ぶ必要があります。そういった方法をコンフリクトマネジメントと呼びます。
建設的な対立をするためのプロトコル(手順や約束事)さえ身につけていれば、人格を傷つけあったり、対立をエスカレートさせることを防ぎながら、問題を解決することが可能です。

長期的に良い関係を築くためには、以下のようなことに気をつけると良いでしょう。

  • (1) 勝ち負けの意識を捨て、共有できるゴールに目を向ける
  • (2) 欲張らない
  • (3) 誤解のないコミュニケーションを心がけ、肯定的な言い方をする
  • (4) 相手のニーズを探る
  • (5) 第三案を作る意識を持つ

興味深い例として、日本では電車の中で音楽を聴いている人や話している人、仕事をしている人などいろいろな人が同じ車両に乗車していますが、オランダでは何ができるかを車両ごとに分けており、パソコンを使ってもいい車両、静かに過ごすための車両、おしゃべりをしていい車両などがあり、用途に合わせて乗車します。異なる希望や欲求を持つ人が各自のニーズを満たす工夫がされているのです。

異なるニーズを同時に満たすにはどうすれば良いか、という問いを立てる場合、どちらかと言うと私たちは、「少数派が我慢する」あるいは「みんなが少しずつ我慢しあい、一つの空間や時間を共有しよう」という考え方になりがちですが、この例のように、空間や時間を分割しつつ共存させる、という考え方もありえます。

まとめ

相手と利害が対立してしまった場合には、諦めずに相手と交渉しようという意識と粘り強さが必要になります。 また、価値観やバックグラウンドの違う多様な人たちと利害の衝突を解決しようとする際に、最低限守るべきラインや、譲歩できることは何か、などを事前に考えて準備しておくことは、相手の文化を理解して心証を悪くしないための工夫をすることと同様に、知っておくべき大事なポイントです。
コンフリクトマネジメントをスキルとして学び、日頃から意識していくことで、双方の得たいゴールになるべく近い形でニーズを満たしていくことができることを実感することができると思います。

ぜひ実践してみてください。

(2017年2月)

プロフィール

村松 邦子
経営倫理士

株式会社ウェルネス・システム研究所 代表取締役
筑波大学大学院修士課程修了(人間総合科学)

経歴

グ ローバル企業の広報部長、企業倫理室長、ダイバーシティ推進責任者を経て独立。
「健幸な社員が健全な組織をつくる」をテーマに、人財組織開発と連動したダイバーシティ、企業倫理、CSR推進の支援・普及に取り組んでいる。

著書(共著)
「人にやさしい会社~安全・安心、絆の経営~」(白桃書房、2013)
「三方よしに学ぶ 人に好かれる会社」(サンライズ出版、2015)

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