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ハラスメント対策最前線経営倫理とダイバーシティマネジメント(7)
公平性とは
前回は、「エシカル・リーダーシップ」のご紹介をし、その中でいろいろな問題提起をした中に下記のような質問が含まれていました。
・メンバーに対し公平かつ敬意をもって接していますか?
公平とは、差別や不正をせず偏りなく分け与えることで、結果の平等とは異なります。
自分の好き嫌いが基でチャンスや情報などを与えない、理にかなった理由なく不利益を与える、結果を正当に判断しないなどが不公平と呼ばれます。
ただ、自分では公平に接しているつもりでも、無意識に持っている偏見には気づきにくく、自分でも知らず知らずのうちに不公平な振る舞いや決断をしていることがあると言われます。
アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)
アンコンシャス・バイアスとは、ダニエル・カーネマンなどのアメリカの認知心理学者によって発見された比較的新しい概念で、認知バイアスとも呼ばれます。その理論によると、人間は既に経験したこと、特に頻繁に経験することを鮮明に思い出しやすく、新しく経験する事象についても、過去の経験を参照して判断しがちだと言われています。
アンコンシャス・バイアス自体が悪いわけではなく、認知や判断を過去の経験や知識を基に自動化し、早めようとする脳の機能の一部であるとも言われており、物事をスピーディーかつ効率的に処理するためには必要な面もあります。ただ、そういった認知・判断のショートカットを無意識のうちにしていることを理解しておかないと、公平・公正・客観的に目の前の事象を判断することができないことがあるので注意が必要です。
以下に、組織の中で起こりがちなアンコンシャス・バイアスの例を一部紹介します。
一貫性バイアス
(例)優秀な成績を上げ続けてきた部下がミスをした際に、「そんなことがあるはずない。何かの間違いだ」と否認したり、「他の人が足を引っぱったのではないか」などとその人を庇おうとするなど。一つのポジティブな情報によって他の情報の判断が左右されてしまうハロー効果(後光効果・威光効果)や、既に投じた労力や資源が後の意思決定に影響を及ぼすサンクコストの罠なども同様のバイアスと言われ、人は自分の決断に一貫性をもたせたいがために、ネガティブな情報を客観的に判断しにくくなる。
正常性バイアス
(例)社内でハラスメントや汚職などが問題になっても、「自分の部署には関係ない」と思い込んだり、顧客クレームがあっても偶然起きたことだと考え、「今回は大丈夫」と思うなど、何か注意すべきことが起こっても対岸の火事だと考え、無視しがちだということ。
自己奉仕バイアス
(例)成績が良かったときは自分の能力やスキルに起因すると考え、成績が悪かったのは天気や顧客の機嫌などの制御不能な状況によるものだと考える傾向。
ステレオタイプバイアス
(例)「女性は結局すぐ辞める」「お茶を出すのは女性社員」「男なのに料理をして偉い」「男のくせに酒も飲めない」等のジェンダーバイアス。以前雇っていた外国人社員にやる気が感じられなかったという少数の例を基に「あの国から来た外国人は熱心に働かない」など、所属集団や国民性を一括りにするなど。一旦個人の中にステレオタイプが生じると、それが常識や通常の状態だと判断されてしまい、反証事例が出てきても、それらは少数派だと片付けてしまうことで、最初に形成した印象や考えが覆しにくいと言われている。
論理錯誤・論理的誤差
(例)読書家だという噂だけで知識や理解力が高いと判断する、よく社内で多数の人と雑談しているところを見かけるので社員から慕われていると判断する、机の周りが汚いので仕事ができないと判断するなど、一見関連のありそうな事象を論理的に結びつけ、よく疑いもせずに判断してしまうこと。
アンコンシャス・バイアスを予防するために
こういった、非合理で無意識的な認知や決断を私たちが日々しているということを踏まえた上で、組織として大きな間違いをしないように、以下のような予防的な取り組みをしていくことが必要です。
- ① 上述したような様々なバイアスを私たちが持っているということを知識として知ること
- ② 自分自身や同僚がどのようなバイアスに左右されやすいかを組織の中で共有しておくこと
- ③ 反対意見の表明やアドバイスがしやすい雰囲気を作ること
- ④ 重要な決断(採用、人事考課、経営的な課題についての意思決定など)の場合には、自分だけで評価せずに意思決定を社内で共有したり、当事者以外の人から意見を聞くこと
重要なことは、一人一人は客観的で合理的な判断ができなくとも、他の人の意見を聞くことで、なるべく合理的な判断ができるようになることもあるということです。自分の無意識のバイアスを知り、他の人とコミュニケーションをとることで、大きな間違いが防げることも多くあります。
ただし、たとえ他の人に相談したとしても、同じ集団の人だけで判断することには危険もあるということには注意が必要です。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と揶揄されるような、同一の閉鎖的な集団によく起こりがちな「社会的証明の罠」と呼ばれるバイアスが生じるからです。
自集団では当然とされる常識が、社会的な常識とかけ離れていることもあります。そういった偏りがあるかもしれないと自分や集団を疑うことが第一歩です。
当事者ではない人や社外の人などとも連携し、エシカル・リーダーシップを実践していきましょう。
<参考文献>
マルコム・グラッドウェル著『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』(2006年、光文社)
ロルフ・ドベリ著『なぜ、間違えたのか?』(2013年、サンマーク出版)
『無意識のバイアス-Unconscious Bias-を知っていますか?』(2017年、男女共同参画学協会連絡会作成リーフレット)
(2017年10月)
村松 邦子
経営倫理士
株式会社ウェルネス・システム研究所 代表取締役
筑波大学大学院修士課程修了(人間総合科学)
グ ローバル企業の広報部長、企業倫理室長、ダイバーシティ推進責任者を経て独立。
「健幸な社員が健全な組織をつくる」をテーマに、人財組織開発と連動したダイバーシティ、企業倫理、CSR推進の支援・普及に取り組んでいる。
「人にやさしい会社~安全・安心、絆の経営~」(白桃書房、2013) 「三方よしに学ぶ 人に好かれる会社」(サンライズ出版、2015) |
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