LGBTQからダイバーシティ&インクルージョンを考える第7回 LGBTQ研修以外の学習機会の設計について

第7回 LGBTQ研修以外の学習機会の設計について

皆さまの職場では、ダイバーシティ&インクルージョンについての学習機会をどのようにつくっていらっしゃるでしょうか。テーマ別に、研修の時間を設定するという方法が想定されやすいかと思いますが、実際には、より幅広く「学習」の場面をデザインすることができます。前回のコラムにおいても、「LGBTQ研修」以外の枠組みでもLGBTQのテーマに触れることができると書きましたが、今回は、どのような取り上げ方ができるか、より具体的な事例を交えながらご紹介します。取り組みの根拠となる資料や参考資料もお示ししていますので、実際に社内での企画を検討される場合は、ぜひあわせてご確認ください。

ハラスメント防止/コンプライアンス研修の一環として

ハラスメント防止やコンプライアンスに関する研修は、定期的に実施しているという職場も多いのではないかと思います。その中で、SOGI(性的指向と性自認)やLGBTQに関するハラスメントについても、テーマのひとつに盛り込むことができます。

<事例>

ハラスメントの種類を列挙し、解説する中に、「SOGIハラ」も入れる。

<内容例>

性的指向や性自認に関する差別的言動や嫌がらせのことを、SOGIハラと呼びます。パワハラの一種になりうることが示されており、厚生労働省が公表しているパワハラ防止指針においては、以下の行為がパワハラの例として示されています。

  • 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
  • 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。1

また、モデル就業規則にも下記のような文言が盛り込まれています。
(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第15条  第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。2
SOGIハラの防止のためには、多様な性のあり方について正しい知識を持つことと、SOGIハラかも?と思った時に、自分はどう行動するか考えておくことが重要です。「このような場面に遭遇した時、あなたはどう行動しますか?」といった事例検討を取り入れて、グループワーク形式で討議するといった、参加型の研修も企画可能です。

<補足>

ハラスメント防止研修全般に共通することですが、ともすると、「○○はダメ」というNG項目を暗記するような研修や、「どこまでなら法律上OKとされているか」という線引きを示すような研修になってしまいがちです。SOGIハラについて触れる場合も、「ハラスメントフリーな職場は、全ての人にとって心理的安全性が高く、パフォーマンスを発揮しやすい職場」という大前提を確認した上で、各種ハラスメントのテーマはより良い職場をつくるための切り口と捉えて学びを深める、という順序で組み立てると、「あれもダメ、これもダメと言われた」という感覚とはちがったハラスメント防止研修になるのではないでしょうか。

公正な採用選考について考える際に

公正な採用選考に向けて、人事担当者や面接担当者向けに情報伝達を行う際、LGBTQの応募者もいることを想定して、工夫できることがあります。

<例>

選考の場面、特に面接において、LGBTQの応募者が不利になることがないように、関係者の認識をすり合わせ、面接担当者としての望ましい行動を示す。

<内容例>

  • ① 取り組みの必要性
    面接担当者は、応募者からすれば「会社の代表」にあたる人です。会社全体がダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの推進を掲げていても、面接を担当する一人ひとりがそれを理解し体現していなければ、「面接官によって、対応に差がある」という状況になってしまいます。

    厚生労働省の示す「公正な採用選考の基本」の中には、下記のような記述があります。
    公正な採用選考を行うことは(中略)応募者の適性・能力とは関係のない事項で採否を決定しないということです。
    出自、障害、難病の有無及び性的マイノリティなど特定の人を排除しないことが必要です。特定の人を排除してしまうというのは、そこに予断と偏見が大きく作用しているからです。当事者が不当な取り扱いを受けることのないようご理解をいただく必要があります。3

    採用に関わる一人ひとりが、応募者の多様性を尊重し、適性・能力を基準とした選考活動と意思決定ができるよう、関係者全員で認識を統一していきましょう。
  • ② 具体的な方法
    厚生労働省リーフレット「公正採用選考を目指して」には、「性的マイノリティをめぐる考え方」というコラムページがあり、「採用選考・就職活動時の困りごと」の具体例や、面接時の望ましくない質問例・良い対応例が紹介されています。このような資材を活用し、面接担当者向けのマニュアルをつくったり、模擬面接をしたりすることも可能です。

マネジメント研修のテーマとして

近年、管理職向けの研修においては、「多様なメンバーをマネジメントしながら、成果を最大化するために」といった意図から、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンも伝える機会が増えていると思います。「ダイバーシティ・マネジメント」というキーワードで、どのように組織内の多様性を尊重し、事業や組織の発展に活かしていくか、ということにも注目が集まるようになりました。

<例>

SOGI/LGBTQを含め、職場内の様々なダイバーシティテーマについて、横断的・連続的に学ぶ機会をつくる。(例:介護、育児、がん、海外ルーツ、障がいなどのテーマを)

<内容例>

  • ① 【テーマ別】基礎知識と職場における困りごとを知る
    LGBTQのテーマであれば、性の多様性に関する基礎を学んだ上で、「福利厚生が法律上の配偶者のみを想定しているので、同性パートナーが対象にならず困る」「男女分けされた設備だけだと困ることがある」といった生の声に触れ、今の職場で「困る可能性がある場面」を想像してみる、という方法が考えられます。

    参考資料
    厚生労働省「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~
    LGBT法連合会「性的指向および性自認を理由とするわたしたちが社会で直面する困難のリスト」第3版
  • ②【共通】部下から相談された際の望ましい対応を知る
    管理職層は、職場内で一次相談を受ける可能性が高い人たちです。相談者の気持ちを受けとめ、個人情報に配慮しながら(LGBTQの場合はアウティングに注意しながら)職場内で必要な連携ができるよう、相談対応の心構えとフローを学ぶことも大切です。
  • ③ 【共通】組織づくりのために各自が実践できることを知る
    制度の検討や環境整備など、テーマごとに工夫できることもありますが、テーマを横断して、共通する実践もあります。例えば、アンコンシャスバイアスやマイクロアグレッションというテーマで学ぶ回を設け、各自の認知や言動を点検してみる、という方法もあるでしょう。

イベント/従業員の自主企画として

「研修」という方法よりも、もっと気軽に学ぶ場を設ける場合、「社内イベント」「キャンペーン」という方法や、従業員有志による企画として実施する方法があります。

<例>

  • 国際的な記念日にあわせて、社内でキャンペーンを展開する
  • 社内の従業員有志が、任意参加のセッションやゼミ等を企画する

<内容例>

  • ① 10月11日のカミングアウト・デーにあわせて、オフィスフロア内の一部スペースでLGBTQをテーマにしたポスター展示イベントを行う。
  • ② プライド月間の6月にあわせて、趣旨に賛同した従業員に、6色レインボー(LGBTQの国際的なシンボルマーク)のオンライン会議背景を配布するキャンペーンを行う。
  • ③ 関心の高い従業員で実行委員会をつくり、30分ほどのショートフィルムの上映と交流会を、任意参加の場として企画する。
  • ④ 定期開催されているファミリーデーのイベントの中で、「大人も子どもも一緒に、多様性について考えよう」という趣旨で、絵本の読み聞かせ会をする。

自由に参加できる形式のイベントやキャンペーンは、「関心はあるけれど、これまで身近に感じる機会がなかった」という人が、情報に触れ「もっと知ってみよう」と感じるきっかけづくりに役立ちます。担当部署がない、予算がないという点が壁になる場合は、自治体等が発行している無償利用可能な資材を活用することもできるでしょう。

「特別な時だけ語られる、特別なテーマ」にしないために

今回は、「LGBTQ研修」以外の方法で、「SOGI/LGBTQ」のテーマについて学ぶための具体案をご紹介してきました。ダイバーシティに関連するテーマを、「研修の時間だけ出てくるもの」にせず、それぞれが自分と関係する話題と捉えられるようにするためにも、日常の中で少しずつ触れる機会を増やしてみてはいかがでしょうか。

(2024年10月)

プロフィール

中島 潤(なかじま じゅん)
認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)所属。

経歴

東京外国語大学在学中に、ReBitにて研修やイベント企画等、多様な性に関する発信活動を開始。学部卒業後、トランスジェンダーであることを明かして民間企業に就職。営業職を経て、販売企画部門課長職として、予算管理や人材育成、組織体制の強化といったマネジメント業務に従事。その後、より深く「多様な性」をめぐる課題を研究すべく、大学院にて社会学を専攻、修士(社会学)。現在は、「LGBTQも含めた誰もが、自分らしく働くことを実現する」という目標のもと、企業・行政等への研修やコンサルテーション、就活生・就労者への支援を行う。

2020年より、LGBTの支援もできる国家資格キャリアコンサルタント養成プログラムnijippoのプログラム責任者をつとめ、コロナ禍ではオンラインキャリア相談などの支援事業を実施。

●監修:『「ふつう」ってなんだ?―LGBTについて知る本』(学研プラス)、『みんなで知りたいLGBTQ+』(文研出版)他

●メディア出演・掲載実績:ドキュメンタリー映画『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき~空と木の実の9年間~』、NHK WORLD、NHK ハートネットTV、TBSラジオ、朝日新聞他

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