創立30周年記念コンテンツチャレンジを可能にする心理的安全な職場づくり

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チャレンジを可能にする心理的安全な職場づくり

チャレンジを可能にする心理的安全な職場づくり

私ども、クオレ・シー・キューブが厚労省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」でご一緒させていただいておりました川上憲人先生が、「チャレンジを可能にする心理的安全な職場づくり」についてお話しくださりましたので、ご紹介させていただきます。

川上憲人先生プロフィール

東京大学大学院医学系研究科
精神保健学分野 教授
公衆衛生学の出身で、職場のメンタルヘルス、地域の精神保健疫学、行動医学を専門としている。特に職業性ストレスに関する研究、地域住民の精神保健疫学研究を中心とし、幅広い研究活動を行っている。
東京大学では、これらの領域に関心の高い大学院生の研究指導と学部学生の精神保健学教育などを担当。

職場で、健康とそして幸せを実現したいという思いは世界共通

私どもは「健康屋」なものですからSDGsの中でも3番目の「すべての人に健康と福祉を」という部分を最も大事にしている業界です。けれども、私自身が産業保健の経験が長いものですからSDGs8番目の目的「働きがいも 経済成長も」にも関係しています。

この2つをつないだような仕事をしております。

さて、職場で、健康とそして幸せを実現したいという思いは世界共通に今なっており、世界中で心理的安全な職場づくりというものが進んでいます。

黄色いところはそれぞれの国でやっている心理的安全な職場づくりの活動で、ブルーのところは国際機関が行っている活動です。

その中でも特にヨーロッパを中心として作られました「心理社会的リスクマネジメント」(欧州枠組みとヨーロッパ全体の枠組み)は、英国規格協会(BSI)の、スタンダードの一歩手前の形のものでしばらくトライアルを続けておりました。それが、このたび英国規格協会(BSI)とカナダの認証協会がいっしょになりまして、ISOで労働安全衛生マネジメントシステムの企画として、現在、検討・進行中です。

多分数年のうちには、労働安全衛生マネジメントシステムを導入される会社では同時に心理社会的リスク、いわゆるストレスマネジメントを入れるという時代がこようとしており、これも大きな流れと思います。

「健康いきいき、職場づくり」について

世界的な流れの中で、私たち日本が、日本型枠組みとして提案しております「健康いきいき職場づくり」についてお伝えします。

この「健康いきいき職場づくり」という枠組みは 2010年~2011年にかけまして、私が国から研究費をいただいて研究していたときに「ステークホルダー会議」で、経団連・東京商工会議所・連合の代表と、私どもの産業保健の専門家が集まり、「いったい日本の中で働く人の健康と幸せを実現するにはどんな枠組みが次の20年に必要か?」ということをまとめたものです。今は東京大学と日本生産性本部がいっしょにやっております「健康いきいき職場づくりフォーラム」という形のプラットフォームで普及啓発を進めています。

①ポジティブなメンタルヘルスの実現を目標としましょう。②職場の持つ強み・よいところ(いい上司に出会えたとか、意義のある仕事ができているとか)に注目しましょう。③健康管理ではなくて、経営としてやりましょうという3つの要素をまとめました。普及啓発にはこの十年ぐらい励んでおります。

この「健康いきいき職場づくり」の目的は働く人のポジティブな心理状態を良くすることとして、大きく舵を切ったのがポイントです。実は、人間の幸せというのは「楽しい系・充実系・評価系」の3つに分かれることが様々な研究で分かってきております。「楽しい系」というのは、職場の場合ですと、仕事をしていて楽しいというポジティブな気持ちになるとか、すごくのめりこんで頑張って仕事ができるというエンゲイジメント。「充実系」は意義とかやりがい・達成感を感じるなど。そして「評価系」は、どれぐらい満足しているかといった職場満足度の調査になります。ところが、職場満足度の調査というのは、労働者の方がどういうステージにいるかで全然違った結果になるので、あまりあてにならないと捉える傾向が最近は強くなっているように思います。どちらかというと今はエンゲイジメントとか、ポジティブな気持ちという「楽しい系」のものを指標とする方向に、職場での研究が移動していると思います。

ワークエンゲイジメントについて

中でも、私どもの教室に以前おりました島津明人という研究者、今年の4月から慶応大学の教授になっておりますが、彼がリーダーとなって普及しております「ワークエンゲイジメント」が、日本でもとても大事だということがコンセンサスとしてはっきりしてきたと思います。

ワークエンゲイジメントが高い社員は体の健康も心の健康もよいことが研究によりわかってきました。ワークエンゲイジメントの高い方は離職や休職も少なく、生産的であるということがわかってきました。単なる課題の遂行だけではなく、自分の業務を超えて助け合いをする、他の人が困っていたら助けてあげたり、あるいは積極的に自分で学習して次のステージを目指すといった行動をするようです。そういう点で、ワークエンゲイジメントは、VUCA時代を生き延びるための、これからのキーワードになるかもしれません。

さて、このワークエンゲイジメントやポジティブな感情には特別な性質があります。ワークエンゲイジメントは、仕事の要求度との間に関連性はなく、労働時間が長いとか、仕事が大変といった要素はほぼ関係がないんです。そのため、いわゆる過重労働対策のようにはいきません。

ワークエンゲイジメントを上げようと思うと「職場の資源・強み」を上げなければいけない、それが唯一の対策であることがわかってまいりました。これは、私も数年前、目から何枚も鱗が落ちた経験でした。「職場の強み」とは、たとえばこういうものです。

仕事の意義を感じる仕事につけている、良い上司に出会って良いリーダーシップを発揮してもらえている、上司に公正に手伝ってもらえている、経営層との信頼関係がある、など。こういうものを高めていくと、心身の健康もよくなり、ワークエンゲイジメントも上がり、生産性も上がり、そしてハラスメントの防止にも繋がるということがわかってきました。今、私どもはこういう職場の強みを大事にした対策を職場でやっていただくように勧めているところです。

システムエンジニアリングG社の事例

G社は、従業員200人ぐらいの会社です。大企業の方は部門や部をイメージしてみてください。システムエンジニアリングの会社で、ヘルスケアに関して課題を抱えておりました。そして震災の影響もあり、業績が思わしくなく、メンタルヘルス不調者も出るという感じでした。どうしようと思っていたのですが、ここで社長が「社員を大切にする会社の風土づくりをします」とはっきり仰って、そういう対策の方に大きく舵をきっていらっしゃいます。

まず取り組みとして、組織や年齢を越えて有志が集まって会社が抱えている問題を検討し、改善していく委員会を立ち上げました。職位や年齢に関係なく、全社的な委員会を立ち上げて対応をしていらっしゃいます。それから職場のコミュニケーションの活性化に、特に力を入れ、組織を小ぶりにしてコミュニケーションが良くとれるようにしたり、あるいは「一人現場」が多いので、チーム化で必ずもう一人加わるようにしたり、シスター制度、懇親会、イベントなど、社内コミュニケーションをかなり活性化されました。

それから社員のモチベーションアップにも力を入れて、中間決算を社員に公表して、社員から意見をもらって中期計画に反映するというような、社員が会社の方針に意見が言える風土を作り、マネージャーの教育をして、ちゃんと職場が改善されるようにするといったことをされました。

その結果、まずどんな効果が出たかというと、「会社が好き」「会社が楽しい」という社員が出てきました。会社の行事には業務都合で来れない社員以外は全員が集まるほど、ものすごく参加率が高くなった。離職者も減少、メンタルヘルス不調者も減少、業績も伸び、採用活動も好調になるという、良い効果を得ております。これが「健康いきいき職場づくり」であり、ポジティブメンタルヘルスというふうに思います。

成功をまとめてみますと、まず方針・体制で「社員を大切にする」というメッセージが強力に打ち出され、全社的な委員会ができました。取り組みには、コミュニケーション・モチベーションの向上で社員の参加を促しています。そして効果としては、社員の前向きな態度、健康の増進、離職者の減少、業績改善などが得られました。

「健康いきいき職場づくり」は新しい経営戦略

「健康いきいき職場づくり」は、働く人が心も体も健康で生き生きと充実して働き、組織を活性化させる取り組みだと考えています。当初は新しいメンタルヘルス対策としてスタートを致しましたが、結果的に新しい経営戦略であるという考え方に至るようになりました。メンタルヘルスも経営戦略も両方を実現するような、そういう施策だと思います。

最近では、東京都もこうした活動に大変賛同くださって、東京都自体が中小規模事業所向けで「いきいき職場を作る」ということをされております。特に「健康いきいき職場づくり」を進めるには、企業内の関係者が協力する「インターセクターアプローチ」がとても必要で、ある部門だけが、例えば人事部が手柄を立てようと思って人事部だけでやってると失敗するという事例を、たくさん見ております。人事以外の人材育成、労働組合それから健康管理など、いろいろな部門と協力することが必要で、会社が一体となって進めるというのが成功のポイントのように思います。

「健康いきいき職場づくり」の効果事例

続いて「健康いきいき職場づくり」の効果事例を紹介します。メンタル不調の休業者が減少、社員の成長を目標とした人事施策を展開したところ、離職者が28%から4%に改善、ポジティブ組織活動を開始したところ、偶然かもしれませんが、経常利益が増加という会社もありました。地元労働局から表彰されたケースや障害を持っている従業員も元気になって頂けるという事例も報告されております。

「健康いきいき職場づくりフォーラム」を日本生産性本部といっしょに立ち上げております。ぜひホームページをご覧いただければと思います。東京都の産業労働局もポジティブメンタルヘルスの推進ということで、今年(2019年)の11月20日(水)に、シンポジウムを開いて中小規模事業者のポジティブメンタルヘルスを推進する予定です。

以上、「健康いきいき職場づくり」の取り組みを、心理的安全な職場を作る一つの方法としてご紹介させていただきました。


川上憲人先生のご著書
ここからはじめる 働く人のポジティブメンタルヘルス
(2019年5月25日発売)

(2019年5月現在の内容です)
文責:クオレ・シー・キューブ

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