LGBTQからダイバーシティ&インクルージョンを考える第1回 職場・就労におけるLGBTQの課題

第1回 職場・就労におけるLGBTQの課題

ハラスメントは被害者や行為者といった当事者だけの問題、あるいはその問題が発生した会社・組織だけの問題ではありません。全ての従業員が職場全体で取り組む必要のあるテーマです。

同様に、LGBTQも当事者だけの問題ではなく、LGBTQも含むかたちで「D&I」は全従業員にとって、自己の尊厳を守る重要なテーマです。このことから、本コンテンツ『LGBTQからダイバーシティ&インクルージョンを考える』を通して、企業におけるD&I推進施策のヒントがご提供できればと考えています。

執筆は、「LGBTQも含めた誰もが、自分らしく働くことを実現する」という目標のもと、企業・行政等への研修やコンサルテーション、就活生・就労者への支援を行っていらっしゃる 中島 潤 さんが手掛けています。

対談「ダイバーシティ&インクルージョンな社会を創るためにできること」

セクシュアリティ・SOGIとLGBTQ

最近、「LGBTQ」という言葉にふれる機会は増えたと感じますが、「セクシュアリティ」や「SOGI」という言葉は、どのくらい馴染みがあるでしょうか。今回は、LGBTQのテーマを扱うにあたり、「人の性のあり方(セクシュアリティ)」についてどう捉え、考えることができるか、という点を確認した上で、職場・就労での課題を整理します。

セクシュアリティは、以下の4つの軸で考えることができると言われています。

これらのうち、性的指向 Sexual Orientationと、性自認 Gender Identityの頭文字をとった、SOGI(ソジ)という言葉があります。これは、全ての人のセクシュアリティを人権として考える際に使われます。(性表現Gender Expressionも加えてSOGIE(ソジー)とする場合もあります。)

SOGIに関してマイノリティとされる人たちを表す際に、LGBTQという言葉が使われています。

SOGIはテーマを表す名前、LGBTQはそのテーマの中で人の集団を指す名前、という関係です。「ジェンダー」というテーマにおける「女性」といった事例と並べて捉えると分かりやすいのではないでしょうか。

「SOGIインクルーシブ」という考え方

セクシュアリティは、全ての人にとってアイデンティティを構成する要素のひとつであり、生きること・働くことにも関わりが深い事柄です。セクシュアリティは人の数だけある、スペクトラムのようなものである、と表現されることもあります。

一方で、社会の仕組みや職場環境が、シスジェンダー(性自認と出生時に割り当てられた性が同じであること)や、ヘテロセクシュアル(異性愛)のみが前提になっている場合、LGBTQの人たちは困難を覚えやすくなります。これらは、SOGIの多様性が想定されていないことによる困難、と言い換えることもできます。

ここからは、「職場や就労の場面においてLGBTQの人たちが困りやすいこと」について整理していきますが、「LGBTQの人たちのために何をすべきか」という観点から更に進んで、「全ての人のSOGIが尊重される、SOGIインクルーシブな環境とは」という問いかけから考えてみることで、その他のダイバーシティ&インクルージョンの施策にも活かせる気づきがあるのではないかと思います。

職場/就労における課題

「LGBTQだからこれに困る」と言い切ることはできませんが、SOGIの多様性が想定されていないことによって困りやすい項目を整理しました。

① 人間関係・ハラスメント
LGBTQの人たちの多くは、職場でカミングアウトをしていません。厚生労働省が行った調査によると、職場でカミングアウトしている人の割合は、レズビアンの8.6%、ゲイの5.9%、バイセクシュアルの7.3%、トランスジェンダーの15.3%に留まっています。カミングアウトをしない場合、職場にLGBTQの人たちがいると想定されていないことでハラスメントにつながることや、人間関係の構築に難しさ感じることがあります。

また、職場でカミングアウトをしている場合でも、周囲の理解不足等によりハラスメントを受けることも少なくありません。「カミングアウトをすることで、職場で働きづらくなるのでは、不利な取り扱いを受けるのでは」という不安からカミングアウトをしていない状況が指摘されています。

2020年の改正パワハラ防止法において、性的指向や性自認に関するハラスメント、いわゆる「SOGIハラ」や、本人の性的指向・性自認を本人の了解を得ずに他の労働者に暴露する「アウティング」もパワハラにあたりうることが示され、職場においては取り組みの必要性が高まっています。

② 福利厚生・制度
福利厚生や制度の中でSOGIの多様性が想定されていない場合、LGBTQにとって働き続けることが困難となる場合があります。

例えば、「配偶者」として戸籍上同性のパートナーも想定されているかどうかによって、「家族と仕事」というライフワークバランスを考える際の前提が変わる、万が一の時に休みや時短の相談ができるかどうかが変わる、ということがあります。また、トランスジェンダーの人が働きながら性別を移行したいと思う場合、中長期的な職場のサポートが必要です。サポートがない状態だと、性別移行のプロセスの中で退職せざるを得ないことがあります。

全ての従業員が帰属感をもって働けるように、という観点から既存の制度を点検することで、エンゲージメントや勤続意欲の向上にもつながることが考えられます。

③ 男女分け
特にトランスジェンダーの場合、トイレ、更衣室、寮、宿泊研修等の部屋/風呂などのハード面や、服装、呼称、名前、役割などのソフト面における男女分けに困難を覚えやすい状況があります。職場での不要な男女分けを見直すことは、ジェンダー平等の観点のみならず、SOGIインクルーシブという角度からも有効な施策と言えます。

そして、具体的にどのような対応を望むか、どのように工夫できるかについては個別対応と対話が必要となるため、相談しやすい環境づくりをすることが重要です。

④ 採用選考
就職活動の際も困難を経験しやすく、LGB他の42.5%、トランスジェンダーの87.4%が、求職時にSOGIや性別違和に由来した困難を経験しているという調査もあります。セクシュアリティを明かすと不利になってしまうのでは、という不安から、「学生時代頑張ったこと」「入社後に実現したいこと」など、自身のセクシュアリティに関連する事項が話せなくなってしまう、という事例もあります。

厚生労働省の「公正な採用選考の基本」には、「LGBT等性的マイノリティの方(性的指向及び性自認に基づく差別)など(中略)特定の人を排除しないことが必要」と記載されており、企業全体での取り組みをすると同時に、採用活動に関わる一人ひとりが十分な知識をもち、適切な対応をすることが求められます。

企業での取り組みにあたり、「カミングアウトしている従業員がいないので、具体的に何からはじめればよいか分からない」というお声を聞くことがありますが、カミングアウトや相談が寄せられる前から、「SOGIの多様性が想定されているか」という角度で職場を確認してみることが可能です。今は可視化されていなくても、LGBTQを含めた多様な従業員が共に働いているという前提で環境が整備されることが、相談のしやすさにもつながっていきます。

次回は、SOGIインクルーシブな職場環境をつくるためにどのような実践ができるのか、具体的な事例をふまえてご紹介します。

(2022年8月)

プロフィール

中島 潤(なかじま じゅん)
認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)所属。

経歴

東京外国語大学在学中に、ReBitにて研修やイベント企画等、多様な性に関する発信活動を開始。学部卒業後、トランスジェンダーであることを明かして民間企業に就職。営業職を経て、販売企画部門課長職として、予算管理や人材育成、組織体制の強化といったマネジメント業務に従事。その後、より深く「多様な性」をめぐる課題を研究すべく、大学院にて社会学を専攻、修士(社会学)。現在は、「LGBTQも含めた誰もが、自分らしく働くことを実現する」という目標のもと、企業・行政等への研修やコンサルテーション、就活生・就労者への支援を行う。

2020年より、LGBTの支援もできる国家資格キャリアコンサルタント養成プログラムnijippoのプログラム責任者をつとめ、コロナ禍ではオンラインキャリア相談などの支援事業を実施。

●監修:『「ふつう」ってなんだ?―LGBTについて知る本』(学研プラス)、『みんなで知りたいLGBTQ+』(文研出版)他

●メディア出演・掲載実績:ドキュメンタリー映画『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき~空と木の実の9年間~』、NHK WORLD、NHK ハートネットTV、TBSラジオ、朝日新聞他

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