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LGBTQからダイバーシティ&インクルージョンを考える第3回 ―個人で実践できること
第3回 ―個人で実践できること
職場づくりは、一人ひとりの行動から
前回のコラムでは、LGBTQも働きやすい職場づくりという観点から、職場環境を整えていくための実践事例をご紹介しました。もちろん、組織的な動きは重要ですし、制度や設備等、職場全体で取り組みを進める必要がある事項もあります。一方で、特に、風土醸成という点については、職場で働く一人ひとりの言動が大きな役割を果たします。今回は、カミングアウトや相談を受けた場合の対応と、相談しやすい人であるために何ができるか、という軸からお伝えします。
カミングアウトや相談を受けたら
前提として、カミングアウトは人と人との関係性の中で行われることであり、「こう対応すれば良い」という正解はありません。個別対応を原則として、ご本人や周囲の環境等に応じて進めることが重要です。その上で、検討時のヒントとして、カミングアウトや相談を受けた時の対応ポイントを4ステップでご紹介します。
① 「話してくれてありがとう」信頼を受けとめ、傾聴する
カミングアウトには、勇気が必要な場合もあります。例えば、職場でカミングアウトしている人は1割程度という調査もあり、「セクシュアリティを伝えたら、その先どうなるだろう」と不安に思いながら話をするという人も少なくありません。安心して話せる環境をつくり、まずは傾聴してください。「相談してくださって、ありがとうございます。」「私に言ってくれてうれしいです。」など、言って良かった、今後もセクシュアリティに関することを話して大丈夫だ、と感じられる声掛けをしてみてください。
② 「何かできることはある?どうしたい?」聞き取り、整理する。
セクシュアリティに関連して、何に困っているか、どう対応してほしいかは人によって異なります。今の困りごとや、変更したい点、希望などを聞き取り、優先順位や方針を共に整理していくことが可能です。また、本人の話を聞かずに「レズビアンだったらこんな職場がいいだろう」と勝手に思い込んだり、「トランスジェンダーならこれに困るはず」などと決めつけたりしないよう、注意が必要です。職場では、上司や人事担当でなければ協力できることはないのでは、と感じるかもしれませんが、人に話す中で整理される、困る場面を知っておいてくれているだけでも心強い、ということもあります。そして、ご本人の希望にあわせて、社内の相談窓口や使える制度などを伝えたり、共に調べたりしてください。
③ 「誰に伝えてる?誰に伝えたい?」情報共有の範囲を確認する。
カミングアウトをするかどうか、誰に、どのように伝えるかは、本人だけが決められることで、本人の承諾なく第三者にセクシュアリティを勝手に伝えることは、アウティングにあたります。誰に伝えたいと思っているのか、本人の希望を確認することが重要です。もし、困りごとを解決するために他の人にも共有したほうが有効ではないか、と考えられる場合は、「どのような理由で、誰に、何を、どのように共有するか」を明示した上で、必ず本人の了承を取ってから共有しましょう。社内制度や対応原則の確認であれば、相談者の名前を明かさなくても回答してもらえることがあるため、周囲の人が代理で問い合わせることで匿名性を保つことが可能になります。これも、周囲の人ができることのひとつです。
また、相談を受ける中で、「部署内ではカミングアウトしたほうが働きやすいはず」「客先にはセクシュアリティを伝えるべきではない」といった押しつけをしてしまわないよう、注意が必要です。「もし部署内にカミングアウトした場合は、○○が可能になるんじゃないかと思ったのですが、そこはどう考えていますか?」といったように、カミングアウトした場合としなかった場合のメリット/デメリットを整理しながら、本人の意思を尊重する姿勢が大切です。
④ 「一緒に考えたいから、聞いてもいい?」対話を続ける。
セクシュアリティを含めて、他の人のことを「完全に理解した」という状況になるのは難しいものです。本人から話してもらわなければ分からないことも多い中、対話が続けられる関係性があることが困りごとの解決にもつながります。「これを聞いたら失礼では」「本人は話したくないかも」と思うことも、「なぜ質問しているのか」という背景を含めて丁寧に説明し、「話しにくかったら無理しなくて大丈夫なんだけど」といったクッション言葉をつかうことで、興味本位で尋ねているわけではないということも伝わり、答えてもらいやすくなります。同僚として、あるいは友人として、「私も一緒に考えたいと思っているよ」というメッセージと共に、対話を続けてみてください。
相談しやすい人であるためにできること~SOGIハラかも、と思ったら~
個人での実践事例として、もう1軸、「相談しやすい人」であるための実践をご紹介します。前回のコラムでは、Ally(アライ:LGBTQのテーマについて、自分事として考え、行動する理解者・支援者のこと)としてできることの中で、「SOGIハラに遭遇した時に毅然と対応する」という項目をご紹介しました。より具体的に、どのような行動ができるのでしょうか。
SOGIハラとは、性的指向や性自認に関するハラスメントのことで、性のあり方を揶揄したり差別したりする言動や、望まない性別での生活の強要、セクシュアリティを理由とした不当な待遇などが含まれます。職場におけるSOGIハラは、まさかこの職場にはLGBTQの人は居ないだろう、という思い込みや、多様な性についての偏った情報に基づいて起こることがあります。多様な性を前提としたSOGIインクルーシブな職場環境の整備と並行し、「SOGIハラかも」と思う事例に気づいた時、一人ひとりが行動することが重要です。周囲の人が果たせる役割についてまとめました。
① ストッパー(制止者)
「その言葉、良くないですよ」「ハラスメントになりますよ」「そのネタ、やめましょう」など、その場でハラスメント的な言動を注意し、止める。自身が上司の立場の場合は、特に「このような言動は許されない」という姿勢を示すためにも、毅然とした態度で。
② レポーター(通報者)
その場では注意できなかった場合も、適切な相談窓口や担当部署に事象を伝えておく。特に組織内でのSOGIハラについては、「先日、こんな言動を見聞きして、SOGIハラではないかと気になった」と報告しておくことで、課題を認知した上での予防が可能。
③ スイッチャー(話題・場面転換者)
「そう言えば、話変わるんですが」などと別の話題を振ったり、ハラスメントを受けている人に対して「○○さん、ちょっと今いい?」といった声かけをして、その場から離れられるように手助けしたりする。
④ シェルター(避難所)
この人なら相談できる、味方でいてくれる、と感じられる行動をとる。例えば、「この前、大丈夫だった?その場で声かけられなくてごめんね。」「この表現、誰かを傷つけるんじゃないかと思うから、変更しましょう。」など、多様な性を尊重する姿勢を日頃から示しておくことで、相談どうぞ、というメッセージにもなる。
これらの行動は、アクティブバイスタンダー(行動する第三者:ハラスメントやいじめ等に遭遇した際、積極的にアクションをとり、被害を防ごうとする周囲の人のこと)の考え方とも共通点があります。「課題に気づいたら、知らないふりはしない」という前提で、自分だったらどんな行動をとるか、ぜひ考えてみてください。(SOGIハラとアクティブバイスタンダーについての対談)
今回は、職場づくりに向けて一人ひとりができることを2つの軸からご紹介しました。一人ずつの行動が、職場全体の風土へつながることを意識しながら、無理のない範囲で実践の輪を広げていただければと思います。
次回は、SOGIハラについて深掘りをすると共に、ハラスメントが起きにくく、起きても改善していきやすい風土にするための工夫を探っていきます。
(2023年4月)
中島 潤(なかじま じゅん)
認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)所属。
東京外国語大学在学中に、ReBitにて研修やイベント企画等、多様な性に関する発信活動を開始。学部卒業後、トランスジェンダーであることを明かして民間企業に就職。営業職を経て、販売企画部門課長職として、予算管理や人材育成、組織体制の強化といったマネジメント業務に従事。その後、より深く「多様な性」をめぐる課題を研究すべく、大学院にて社会学を専攻、修士(社会学)。現在は、「LGBTQも含めた誰もが、自分らしく働くことを実現する」という目標のもと、企業・行政等への研修やコンサルテーション、就活生・就労者への支援を行う。
2020年より、LGBTの支援もできる国家資格キャリアコンサルタント養成プログラムnijippoのプログラム責任者をつとめ、コロナ禍ではオンラインキャリア相談などの支援事業を実施。
●監修:『「ふつう」ってなんだ?―LGBTについて知る本』(学研プラス)、『みんなで知りたいLGBTQ+』(文研出版)他
●メディア出演・掲載実績:ドキュメンタリー映画『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき~空と木の実の9年間~』、NHK WORLD、NHK ハートネットTV、TBSラジオ、朝日新聞他
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