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LGBTQからダイバーシティ&インクルージョンを考える第4回 SOGIハラを知る
第4回 SOGIハラを知る
SOGIハラとは
SOGIハラとは、性的指向(Sexual Orientation)や性自認(Gender Identity)に関するハラスメントのことです。「SOGIハラ=LGBTQの人へのハラスメント」と誤解されやすいのですが、ハラスメントを受けた人のセクシュアリティは関係なく、性的指向や性自認のあり方を尊重しない言動がSOGIハラにあたります。今回は、具体的なSOGIハラの事例をふまえ、SOGIハラの起きにくい職場づくりについて考えていきます。
※この先、具体的なハラスメントの場面や言葉が出てきます。
職場で起こりがちなSOGIハラについて知る
SOGIハラはいくつかの類型で整理されていますが、今回は、そのうちの3つの類型をとりあげ、職場で起こりがちなSOGIハラ事例と共に、対応や防止のためにどのようなことができるかを見ていきましょう。
① 性のあり方を揶揄したり差別したりする言動・差別的な呼称
例えば、下記のような言動は、SOGIハラにあたりうるものです。
「レズってなんか気持ち悪い。」
「あの人の話し方、ちょっとオネエっぽいよね?」
「男同士でそんなに仲よくしてるとホモって思われるよ。(笑)」
「対応が面倒だから、うちの部署にはLGBTQの人はいてほしくない。」
LGBTQという言葉は広く認知されるようになりましたが、自分で情報を得ようとすると、ネット上を含め、偏った情報が多くあります。研修や会議などの「オフィシャルな場面」では多様性の尊重を意識した言動をしていても、日常会話となるとLGBTQについて排除的な言動が行われているという状態も見受けられ、その時に出てきやすいのが、マイノリティとされる性のあり方への揶揄や差別的な呼称です。
上記の例でいくと、「レズ」「オネエ」「ホモ」という表現は、長らく差別的に使われてきた背景があり、単語の使用自体を避けるべきとされています。また、特定の個人に対する発言や攻撃でなかったとしても、言葉をかけられた本人が気にしていない(ように見える)場合も、SOGIハラにあたりますので、気づいた周囲の人が、声かけを含めて対応していくことが重要です。(ヒント:一個人で実践できること)
このようなハラスメントは、多様な性に関する情報不足やLGBTQへの誤解に基づいて起こることも多いため、研修実施の他、希望者が学べる教材や資材を開発する、おすすめ資料や情報源について従業員に共有する、等の方法が有効です。最近は、社外に向けて資材を公開している企業もあり、WEB上の動画など、無償で活用できるものも増えてきました。まずは、担当チーム内で、各自が見つけた資料を持ち寄るところからはじめてみるのはいかがでしょうか。
② 望まない性別での生活の強要
「女性はちゃんと化粧すべき。」
「男なんだから、髪を切りなさい。」
職場の指導としてありそうな場面かもしれませんが、多様な性を尊重するためには、「誰がどのような性自認かは、本人から話されるまで誰も分からない」ということも含め、性別によって望ましいあり方や格好を押しつけていないか、点検してみることもできます。
特に、表現する性をめぐっては、「トランスジェンダーの従業員から相談があれば、特別対応を検討する」という方針が示される場合もありますが、重要なことは、「トランスジェンダーであってもなくても、表現する性や“らしさ”について、押し付けられる必要はない」ということです。
企業では、ユニフォームや制服の男女差をなくす、服装規定について性別を分けない一律のものに変更するなど、まずは「表現する性」の部分から不要な男女分けをなくしていこう、という動きもみられます。思い切って、服装規程自体を「TPOに配慮した服装」というシンプルな表現に変えた、という職場もありました。規程変更時には、役員から検討の背景も含めた共有があり、カミングアウトせずに働いているトランスジェンダーの従業員や、求められる「表現する性」がしっくりこない従業員もいるかもしれないという想像力に加えて、「服装も含め、各自の自律的な判断を信頼しあえる組織にしたい」というメッセージも伝わってくる変化だと感じました。
③ アウティング
「アウティングはあってはならないこと」という認識が広まりつつありますが、職場においては、人事情報の取り扱いの仕組みや「よかれと思って」によるアウティングが起きるリスクが高い状況があります。
例えば、ある従業員が自身の課の上長との面談でカミングアウトをした場合、その上長が社内システムの「面談記録」に記載することで、部門長や人事から閲覧可能になってしまったり、異動が発生した時に、次の上長へも情報が伝わってしまったりすることが考えられます。また、同性パートナーに関連した制度を利用することで、その履歴が人事データベースに登録され、本人が想定していない範囲の人までパートナーの存在を知ってしまう、というような事例もあります。
人事や相談窓口の担当者に関しては、LGBTQに関連した相談を受けるにあたって、社内カレンダーで招待を送るとチームや上長に意図せず共有されてしまう、予定が公開されているとミーティング内容が推測される不安がある、といったこともあるため、連絡手段についても事前に本人と相談し、柔軟に対応できるとよいでしょう。加えて、性のあり方に関連して、解決したい課題や配慮が必要と思われる事項が出てきた場合、「上長にも伝えておいたほうが、職場で工夫できることが増えるから、自分から伝えておこう」「制度利用に関することだから、事前に総務部にも話を通しておいた方がいいだろう」といった「よかれと思って」の勝手な先回りが、アウティングになってしまうケースもあります。本人の意向確認を丁寧に行い、決めつけない姿勢が求められます。
このようなSOGIハラを防止するには、多様な性についての理解を促進すると同時に、SOGIハラを含めたあらゆるハラスメントが起きにくい職場をつくる、という全体的な取り組みも必要です。
SOGIハラが起きにくい職場とは
2020年の改正パワハラ防止法において、SOGIハラやアウティングはパワーハラスメントにあたりうる、ということが明示されました。これは、「パワハラの予防が、SOGIハラの予防にもつながる」ということでもあります。 例えば、アウティングについては、パワハラの類型の分類の中で、下記のように示されています。
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する
〔厚生労働省 ハラスメントの類型と種類より抜粋〕
「アウティングしないように」という意識と共に、「個の尊重のため、従業員の個人情報の公開範囲は必要最小限となっているだろうか?」「上司であればプライベートも含めて知っていて当然、という意識になっていないだろうか?」といった観点からもチェックをすることで、リスクに気づくことができます。多くの場合、ハラスメント(かもしれない)行為をしている側は、自分の行為が個を侵害していること、誰かにとって不快なものになっていることに気づいていません。職場で、何が「個の侵害」にあたるのか、どうすると「個が尊重された状態」になるのかを話し合い、共通の理解を持っておくことで、パワハラもSOGIハラも起きにくい職場になります。
今回は、SOGIハラについて具体的な事例と予防策をご紹介ました。ぜひ、何がハラスメントにあたりうるのかを知り、今の職場では特にどのような角度でSOGIハラが起こる可能性が高いか、多様な人が働きやすい職場づくりを考えてみてください。
(2023年8月)
中島 潤(なかじま じゅん)
認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)所属。
東京外国語大学在学中に、ReBitにて研修やイベント企画等、多様な性に関する発信活動を開始。学部卒業後、トランスジェンダーであることを明かして民間企業に就職。営業職を経て、販売企画部門課長職として、予算管理や人材育成、組織体制の強化といったマネジメント業務に従事。その後、より深く「多様な性」をめぐる課題を研究すべく、大学院にて社会学を専攻、修士(社会学)。現在は、「LGBTQも含めた誰もが、自分らしく働くことを実現する」という目標のもと、企業・行政等への研修やコンサルテーション、就活生・就労者への支援を行う。
2020年より、LGBTの支援もできる国家資格キャリアコンサルタント養成プログラムnijippoのプログラム責任者をつとめ、コロナ禍ではオンラインキャリア相談などの支援事業を実施。
●監修:『「ふつう」ってなんだ?―LGBTについて知る本』(学研プラス)、『みんなで知りたいLGBTQ+』(文研出版)他
●メディア出演・掲載実績:ドキュメンタリー映画『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき~空と木の実の9年間~』、NHK WORLD、NHK ハートネットTV、TBSラジオ、朝日新聞他
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