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海外ハラスメント問題第3弾 パワハラ上司を調教する!ローラ・クロショウさん
第3弾 パワハラ上司を調教する!ローラ・クロショウさん
今回は、IAWBH職場のいじめとハラスメント国際学会(2012年6月13~15日 コペンハーゲンにて開催)で基調講演をされた、ボス・ウィスパリング*・インスティテュート(Boss Whispering Institute)の創設者兼ディレクターのローラ・クロショウさんをご紹介させていただきます。
* ウィスパリングとは、本来ささやきを意味します。The Horse Whisperer(邦題:モンタナの風に抱かれて)という映画でロバート・レッドフォードが傷ついた馬を癒す医者を演じていたのをご存知の方もいらっしゃると思います。ここでは、そのイメージのように「調教する、しつける」といった意味で使われています。
ローラ・クロショウ Laura Crawshaw
ボス・ウィスパリング・インスティテュート創設者/ディレクター
略歴
・スミス大学で社会福祉学部で修士号を取得
・シアトル・インスティテュートで精神分析学を、ハーバード大学で地域医療計画を学ぶ
・フィールディング大学で人間と組織システムに関する博士号を取得
・1994年に行為者のコーチングを行うエグゼクティブ・インサイト・デベロップメント・グループ
(Executive Insight Development Group)創設
・2008年にボス・ウィスパリング・インスティテュート(Boss Whispering Institute)創設
心理療法士、会社役員、企業の管理職を指導するコーチとして、また研究者として30年以上の経験をお持ちで、現在、いじめやハラスメントに苦しむ職場を減らそうとそのための調査研究やコーチング、コンサルタントなどを手がけられています。さらにコーチ育成や、紛争に関わるプロフェッショナルの方々(弁護士や調停者など)、国連職員の方々の研修を請け負われているそうです。
IAWBH 職場のいじめとハラスメント国際学会での基調講演
- 発表タイトル:職場いじめの現場に見られる、悲しみや怒り、問題解決のための洞察
- 発表内容:職場のいじめが行われている現場では今日、被害者は苦しみ、行為者は自分の身を守ろうとし、そうした人々を雇用する組織は不安を抱え、さまざまな感情が溢れています。
このような状況の中で垣間見られる職場のいじめの精神力学とその潜在的影響に関する洞察を発表されました。
また、行為者へのコーチングや従業員へのコンサルティング活動を通して、精神分析学、神経科学、臨床の現場などから導き出されたいじめ行為に潜んでいる不安の構造と、職場のいじめという分野での進展を妨げかねない思い込みや感情などについて言及されました。
T-A-Dダイナミクスについて
特に印象に残っているのは、T-A-Dダイナミクス(タッドダイナミクス)という精神力学の構造です。
人が精神的脅しを受けると、不安が呼び起こされますが、それに対してFight(戦う)か、Flight(逃げる)かで脅しから身を守ろうとするメカニズムです。恐れが動機になっている言動を説明しています。
このメカニズムをコーチングで提示すると、行為者は、なぜ部下が彼らの取り組みに抵抗するのかが理解できるようになり、彼らの部下の行動は実は、怠けているわけでも、馬鹿にしているわけでもなく、行為者からの精神的な脅しが発端になって引き起こされているとの認識を新たにし、ハラスメントをすることなく、業務目標を達成する上での見識を持つことにつながります。
また、行為者にとっても、思うように動かない部下は、目標達成に立ちはだかる障壁=「脅し」と映り、そこから不安が生じ、つい攻撃的な態度をとってしまい、ハラスメントに至る、という行為者自身の行動力学への気づきがもたらされます。
基調講演全体はこちらにデータがアップロードされています。
http://www.bosswhispering.com/Copenhagen-Keynote.pdf
ボス・ウィスパリング・インスティテュート創設者 ローラ・クロショウさんに聞く
- Qアメリカには職場のいじめに関する法律はあるのでしょうか?
- Aアメリカにはセクハラ、差別(人種、宗教、性別、民族のちがいを不当に扱うこと)に関する法律はありますが、職場のいじめに関する法律は、法制化へ向けた大きなうねりはあるものの、今のところ、まだありません。この背景には事業主たちが職場のいじめの法律ができることに抵抗している、訴訟を起こされることを恐れて反対しているということがあると思います。
- Q職場でのいじめを減らすにはどうしたらいいと考えますか?
- A私は、人には身体に安全なだけでなく、精神的にも安全な職場で働く権利があると考えています。それはつまり、誰もが敬意をもって扱われる職場ということです。
多くの事業主は、顧客のことは敬意を持って扱わないとビジネスが立ち行かなくなるということを知っているのですが、同じことが従業員にも言える、となると、なかなかそうは思えないようです。
職場でのいじめを許してしまっている要因は何か、いじめにいたってしまう行為者の行動要因は何か、それらの理解を深めること自体が、職場でのいじめを減らすための洞察や解決策を生み出しているように思います。 - Q職場においてハラスメント予防を推進する上で大切なことは何だと思いますか?
- Aいくつかあると思いますが中でも大切なのは、組織の上層部に関心を持ってもらい、職場では受け入れることのできない、許されない行動について、その制限や規則を設けることだと思います。多くの事業主は会社に多大な価値をもたらす優秀な従業員を失うことを恐れていますが、そうした従業員たちの行動がまた、良き幹部を失ったり、訴訟を起こされたり、といった会社に危険をもたらすことになりかねないという不安も同時に抱えています。
- Qそうした不安を和らげるにはどうしたらよいのでしょうか?
- Aこれまで、事業主の抱える恐れについて多くの調査をしてきましたが、事業主が恐れているのは、自分が行為者を傷つけてしまうのではないか、怒らせてしまうのではないかということ、もしくは、処罰を受けた行為者から会社に仕返しされるなど、会社に損害を負わせられるのではないかということにあるようです。
私はコーチングを通じて経営層のこうした恐れや不安を和らげ、組織における行動指針を明示するにいたるところまで導くことを目指しています。行為者は一般的に自分で自身の言動に気づいておらず、周囲に与えるインパクトがそれほどでもないと思っている傾向がありますが、ボス・ウィスパリングという行為者に特化したコーチングメソッドを提供し、いち早く自身の言動が周囲に与えるインパクトに気づき、破壊的でないマネジメントスタイルを身につけることを支援します。
コーチングを受けた行為者たちは、他者との関係性を理解する能力や、有害な振る舞いをせずとも管理できる能力など、そうした自分の新たな能力に気づき、自信を持ちます。
私たちのコーチングは通常8~10回で終えますが、その手法は楽しく、気づきをもたらすものでもあります。事業主には行為者たちの3回目あたりのセッションに見られる変化を是非ご覧頂きたいと常々思っています。
(次回は、クロショウさんのコーチング手法、ボス・ウィスパリングについて詳しくお伺いしていきます。)
この特集内容に関するご質問やご要望などございましたら、お気軽にお寄せくださいませ。
レポーター クオレ・シー・キューブ 岩崎
(2012年9月)
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