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海外ハラスメント問題第9弾 職場いじめの防止~いじめの現状と対策~ エヴリン・フィールドさん
第9弾 職場いじめの防止~いじめの現状と対策~
エヴリン・フィールド氏
今回は、オーストラリアにおけるハラスメント防止啓発の第一人者で、私たちに『職場のいじめとハラスメント国際学会』の開催を知らせてくださったEvelyn M. Field(エヴリン・フィールド氏)をご紹介します。昨年のフィールド氏来日時の講演内容『職場いじめの防止~いじめの現状と対策~』を2回にわたってお伝えし、海外ハラスメント特集をいったん終了させていただきます。
今回は、『職場いじめの防止~いじめの現状と対策~』のうち<いじめの現状>を抜粋し、次回第10弾では<対策>についてお伝えしたいと思います。
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職場でのいじめ
いじめと言うと一般的には子供同士の学校でのいじめを指すように思われますが、大人たちの職場でもいじめは存在し、実際、大人のほうがいじめによって傷ついているにもかかわらず、子供たちのいじめよりもサポートが少ないように私は思います。
いじめにはたくさんの型があり、力の乱用(乱暴)を伴います。ちょっとしたからかい、言葉の暴力、仕事の妨害、個人攻撃、悪意のある噂話、暴力行為…というように、なにげない出来事やチャレンジなどから巧妙に始まり、徐々にエスカレートします。いじめは公衆の面前で行われる嫌がらせのような場合もあれば、悪賢く水面下で見えないように行われる場合もあります。
いじめはあらゆる組織で起きます。特に医者、弁護士、先生、看護士、警察、救急救命士、マネージャーといった、一般的には人を思いやる立場にいるように思われる職業や職位でも起きます。
アメリカでは労働者の15~25%が職場いじめを経験していて、教育、看護、福祉、警察からの申し立てが多いというデータがあります。また、『オーストラリア看護連盟』の調査(2000年)では、以下の事が明らかになりました。
- 威嚇するような言動を体験した(84%)
- 過酷な職場にいた(73%)
- はっきりものを言う事を怖れていた(65%)
- 堪え難い苦痛ないじめに遭った(43%)
- 言葉の暴力があった(40%)
- 傷つくからかいや冗談があった(38%)
- 身体的強迫に遭った(23%)
- 暴力に遭った(15%)
それらのいじめの行為者は上司(67%)、同僚(65%)、顧客(30%)、雇用主(18%)でした。
私がStale Einarsen(ステイル・アイナーセン、ベルゲン大学心理学部教授)、Paul McCarthy(ポール・マッカーシー、リサーチャー、グリフィス大学「職場のいじめと暴力プロジェクトチーム」所属)らと定義した「いじめ」は以下の通りです。
「いじめは職権の乱用を伴い、ひとりあるいは複数の人に向けた不愉快な、理不尽な度重なる行動を引き起こし、このことは屈辱、攻撃、脅し、苦悩をもたらす。いじめは、健康、安全、職歴(キャリア)を危険にさらし、仕事の遂行を妨げ、有害な非生産的労働文化(職場環境)をつくり上げる。いじめは誰にでも、どのような組織でも、いつでも起こりうる。」
職場いじめの損失
職場のいじめは企業にとっては無視できない問題です。従業員がそれぞれの能力を発揮し、安全に働くことができなければ、生産性は上がらず、経費面で多額の損失をもたらしうるからです。
例えば以下のような損失が考えられます。
- 常習的欠勤・病気休暇・プレゼンティーイズム(病気なのに出勤すること)による組織への影響
- 医療費、薬代、健康に関する経費、保険料の増加
- 苦情に対する法的助言を得る費用の増加
- 罰金、補償、失業手当給付金、その他従業員の入れ替えによる費用の増加
- 不正行為、事故、自殺などの増加
この他に、職場いじめは、やる気が失せてミスが増える、優秀な人材が流出するなど、従業員全体のモラルを低下させます。
いじめる側の特徴
いじめる側は、脅されたり、挑まれている(試されている)と感じた時、おびえた動物と同じように、自分をおびやかす相手を誰かれ構わず威嚇します。自分をおびやかす人とは、たとえば非常に仕事ができ、上司の誤った判断を試す部下のような人です。
ローラ・クロショウ氏(海外ハラスメント特集・第3~4弾)は『ボス・ウィスパラー』で、「いじめる側のほとんどが心もとない、不安定な状態にある」と述べています。そのため自分の無能さをさらすのを恐れ、有能に見せたがったりするのです。彼らは人々の感情に盲目的で、共感力に欠け、誰にでも攻撃的です。
彼らは意識的にせよ、無意識的にせよ、標的から力を奪っているのを知っています。必ずしも傷つけていること、いじめていることに気が付きませんが、いじめられる側の無力感や怒り、恐れなどの明らかなサインは見て取れているものです。
被害者にもたらされる影響
一方、いじめられる側には、いじめに耐えられる人と耐えられない人がいます。
例えば、いじめに遭った時、スマートな言い返し方で、怒りや恐れを表さず、その場からただいなくなるなどして耐えられる人がいます。
しかし、身体的、情緒的な健康に影響が出て、病んでしまい、高血圧、体重の増加、睡眠障害など大変な目に遭う人もいます。ストレスがたまり、心配になり、落ち込み、PTSDになる場合もあります。彼らの資質は発揮される事は無いですし、キャリアは滞り、経済的にも水準が下がり、人づきあいや家族とのあり方にも影響が出ます。多くの人がリカバリーに何年も費やし、元通りのフルタイム勤務に戻れない人も見られます。そして、まったく新しい道へ進まざるをえない人もいます。
一般的に被害者は無力感に苛まれる、というのがいじめの最大の特徴です。
職場いじめの標的となった人の初期被害としては、次のものが挙げられます。
- 身体的傷害(睡眠障害など)を負う
- 心理的障害を負う
- トラウマを抱える
- 集中困難になる(集注力が欠けてしまう)
- 人格変容が起こる(人が変わったようになる)
- 社会生活が減少する(人付き合いがなくなる)
- キャリアや収入などに問題が出る
- 夫婦や家族関係に問題が出る
職場いじめのサイン
いじめはマネジメントが従業員のケアをする義務を怠っているために起きます。いじめが組織の生産性やパフォーマンスに影響を及ぼす機能障害、故障のサインであることに気づかなくてはいけません。職場で以下のような症状が見られたら要注意です。
- 病気、欠勤、プレゼンティーイズム(病気でも出勤する)
- スタッフの入れ替わりの激しさ
- イライラやストレスの増加
- アルコール、喫煙、摂食障害の増加
- 職場でのけがや事故の増加
- 補償請求の増加
- 不満の増加(法的手続きを伴う)
- 顧客からのクレーム増加
- ミスの増加
- モチベーション低下
- 生産性、パフォーマンスの低下
- 人間関係の悪化
多くの組織ではいじめの存在を認めようとしません。証拠を隠し、機能障害に気づかないふりをしたり、職場の安全性や生産性の低下への危険信号に注意を払いません。結果、いじめを悪化させてしまうのです。
現状を認識しない限り、防止策も打てません。職場いじめの防止において、職場に機能障害、故障のサインは出ていないかなど、職場の今の状態をまず認める事は非常に重要なステップです。
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次回は『職場いじめの防止~いじめの現状と対策~』の<対策>についてお伝えします。
〔Evelyn M. Field(エヴリン・フィールド氏)〕
フィールド氏はオーストラリア人で、臨床心理学者として学校や職場いじめの相談・被害者支援、管理職に対する研修を実施し、オーストラリア・メディアにもいじめ・嫌がらせ問題の専門家として頻出されています。職場いじめに関する国際会議においては、毎回ワークショップの主宰や発表を行っていらっしゃり、昨年開催された職場のいじめ・嫌がらせ国際学会でもお目にかかりました。国際学会の意義やあり方について積極的に発言されている様子が印象に残っております。
著書に『Bully Blocking at Work』があり、その内容はハラスメント被害に悩む人の自己救済、管理監督者や指導者に対するハラスメント防止と発生した場合の対応方法、加害者の特徴など、ハラスメント問題に対応するために必要な知識が網羅されています。日本語訳は現在進行中です。
ウェブサイト http://www.bullying.com.au/about/index.php
(2013年3月)
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