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海外ハラスメント問題第7弾 フランスの法律に見るモラルハラスメント ルイック・ルルージュさん
第7弾 フランスの法律に見るモラルハラスメント ルイック・ルルージュさん
今回は弁護士で、フランス、ボルドー大学の研究員も務められているルイック・ルルージュ(Loic Lerouge)さんをご紹介します。
ルルージュさんは現在、ボルドー大学にある比較労働及び社会保障制度センター(Centre for Comparative Labour and Social Security Law)で調査研究をされています。昨年の初夏、コペンハーゲンで開催されましたIAWBH職場のいじめとハラスメント国際学会にも参加されていましたが、秋には東京大学で日本におけるハラスメント事情を調査されていました。
弊社で開催されました「パワハラ研究会」で、フランスの法律とモラルハラスメントについて事例等も交えながらお話いただいた内容をご紹介します。
モラルハラスメントについて
日本ではモラハラと呼ばれ、夫婦間のハラスメントを指すケースが目立つようですが、マリー=フランス・イルゴイエンヌ著『モラルハラスメントが人も会社もダメにする』によると「・・・フランス国民議会の社会問題委員会では、モラルハラスメントを労働法に導入するにあたり、以下のように定義しています。《いかなる給与所得者も、勤労者の尊厳を傷つけ、屈辱的で劣悪な労働条件をつくる目的で行われる、あるいはその効果を持つモラルハラスメントの行為を、雇用者から、もしくは組織の代表者から、そのほか職務上権力を有して、その権力を濫用する人物から、繰り返し受けることがあってはならない》・・・」とあります。
- Qモラルハラスメントを法律で扱うことになった経緯をお聞かせ下さい。
- Aフランスで1998年に“Le Harcelement Moral: La violence perverse au quotidien”(邦題:マリー=フランス・イルゴイエンヌ著『モラルハラスメント・人を傷つけずにはいられない』)が出版されました。この本には、フランスの労働者たちが気が付いてはいたけれども言葉にすることができなかった状況が書かれていることから、広く論争を呼び起こしました。このことがきっかけになり、1999年国会で法案が提案され、2002年1月17日職場でのモラルハラスメントに言及した「社会近代化法」が制定されました。
- Qフランスの労働法ではモラルハラスメントはどのように取り上げられているのでしょうか。
- A労働法1152条に、従業員は、権利と尊厳を侵害する可能性のある、身体的・精神的健康を悪化させるような労働条件の悪化をまねくあるいは悪化をさせることを目的とする繰り返しの行為に苦しむべきではないとあります。
また、雇用者には予防義務があり、従業員の身体的・精神的健康を守り、安全を保障するのに必要な対策をとらなければならず、また、モラルハラスメント予防について必要な対策を講じなければならないとあります。
雇用者の取り組みだけでなく、その他の関係者の役割についても触れられています。
安全衛生委員会:職場における従業員の身体的・精神的健康を守るのに貢献する(職場外から雇われた従業員も含む)(労働法4612条-1)
産業医:産業医は特別なケアが必要と思われる精神疾患を持つ従業員のために、独自の施設を提供するよう雇用者に提言することもある(労働法4624条-1)
労働組合:労働組合は公益通報者として行動する権利がある。もしも職場で人権・身体的精神的健康・個の自由が侵害されていることなどを目撃、あるいは従業員から情報を提供されたら、雇用者にすぐに知らせなければならない(労働法2313条-2) - Qモラルハラスメントの被害に遭った場合、どのような補償があるのですか。また処罰はどのようなものですか。
- Aモラルハラスメントの被害を受けた従業員は二種類の補償を受ける事が出来るとされています。
ひとつは経験した言動に対する補償を受ける事ができ、もうひとつは雇用者の怠慢に対する補償を受ける事が出来るのです。ただし、それらを訴え出る被害者はそれら二つの損害を証明しなければなりません。
また処罰に関しては、刑法で、労働法のモラルハラスメントに関する定義を組み込み、懲役2年と罰金4万5千ユーロを規定しています。(刑法222-33-3条) - Q上司を訴えたり、企業を告発するとなると、報復や不利益などが従業員としては心配になると思うのですが・・・
- Aフランスの労働法には、モラルハラスメントを告発した従業員の免責が規定されており(労働法1152条-2)、以下のようなかたちで、従業員を守り、モラルハラスメントの通報をしやすくしています。
モラルハラスメントを目撃したり報告したりしたことで、従業員が罰せられたり、解雇されたり、差別されたりしてはならない
職場のモラルハラスメントの定義に関する知識やこうした状況におかれた従業員を守る対策の適用に関する知識がないことなどによる雇用契約の終了を取り消す - Qモラルハラスメントで起訴する際のプロセスについて教えて下さい。
- A実際にモラルハラスメントで訴訟を行うとなると、証拠追認の負担というものが発生します。
モラルハラスメントの苦情を訴える従業員は、ハラスメントがあったということを裏付ける事実を証明しなければならないのです。(労働法1154条-1)
それを受けて、被告はそのような申し立てに至った行動はハラスメントではなかったということを証明し、ハラスメントとはなんら関係がないことを示す客観的要素によって弁明しなければなりません。
裁判官はそこに独自の見解を示すわけですが、判断をするために状況をさらに捜査するよう各自に命令することもあります。 - Q裁判所ではモラルハラスメントをどう捉え、どのような視点で判断しているのでしょうか。
- A最高裁では、そもそもモラルハラスメントのようなことは起こるべきではないと考えているようです。職場では従業員の健康と安全を保障する義務があることは大前提ですが、例えばハラスメント予防の対策を導入しているのにもかかわらず違反者が罰せられた場合、雇用者にもその責任があるとしています。また、雇用者自身の過ちではない要素が損害につながったとしても(たとえば従業員の過ちなど)、最高裁では被害者への部下(行為者)の行動の責任は雇用者にあるとしています。
2010年2月3日の最高裁社会法審議では、雇用者の予防義務をもとに判決を下しました。つまりハラスメントを阻止すべく精神的健康の予防対策が導入されていたとしても、職場で従業員が身体的あるいは精神的虐待の被害(モラルハラスメントやセクシュアルハラスメントも含む)に遭ったとき、雇用者は有罪になります。
2009年11月10日の最高裁社会法審議では、モラルハラスメントは行為者の悪意ある故意によるものではない場合でも起きる事があると認めました。また、繰り返し行われるマネジメント手法がモラルハラスメントになりうるとしました。 - Qモラルハラスメントに関連した判例はありますか。
- A006年6月21日『プロパラ訴訟』というものがありました。
これは、従業員数名が上司の残虐で屈辱的な態度、脅し、不当な処罰について苦情を申し立てたものです。このことはまず労働審査官によりモラルハラスメントがあったと認められ、最高裁でも、モラルハラスメントがあったという判決が下されました。このことから、こうした問題への雇用者の責任がさらに浮き彫りになりました。そういった意味で注目度の高い訴訟だったと思います。この訴訟では、以下の事が明確化されました。
雇用者は企業の従業員の健康と安全を守るにあたり、安全を保障する義務がある。
特に、モラルハラスメントと雇用者の過ちの欠如に関しては、雇用者の責務を免れるものではない
従業員が部下へモラルハラスメントを行っている事を知りながら何の対策も講じない雇用者には、雇用契約の不履行があったとして、罰金の支払いを命じられる可能性がある
もし雇用者が、ある労働者から他の労働者へのモラルハラスメントを防ぐのに必要な取り組みを手がけなかった場合、雇用者は雇用契約を違反したとして法的責任を負わされる事がある
結果に対する責任義務が雇用者にあるとする本件は、身体のみならず精神面での健康も含め、労働者の安全保障を雇用主の義務とする道筋を付けた
(2013年1月)
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