- Home
- ハラスメント情報館
- 海外ハラスメント問題
- 第8弾 フランスのセクハラ法(ストップ・ハラスメントキャンペーン)
海外ハラスメント問題第8弾 フランスのセクハラ法(ストップ・ハラスメントキャンペーン)
第8弾 フランスのセクハラ法(ストップ・ハラスメントキャンペーン)
ハラスメント関連について日本における政府の取り組みとしては、厚労省の職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言が昨年話題になりましたが、前回ご紹介しましたルイック・ルルージュ氏の母国フランスでは、2012年11月に法務省がストップ・セクシュアルハラスメント・キャンペーンを展開しました。同年8月に新しく制定されたセクハラ法の周知が目的です。
これがそのときのプレスリリース資料です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
フランス法務省(2012/11/12)
ストップ・ハラスメントキャンペーン
クリスチアン・トビラ法務大臣兼法務長官とナジャ・バロー=ベルカセム女性権利大臣兼政府スポークスマンは今日、セクハラ問題を啓発するため、政府のコミュニケーション・キャンペーンを、「セクシュアルハラスメント:これからは法律があなたを守ります」というスローガンで、開始した。
キャンペーンの主な目的は次の通り:
人々に、セクハラの法律条件を知らしめる(2012年8月6日から罰則がさらに重くなっていること、セクハラに続いて行われる差別に対しても処罰されること)
- 特に職場や自治体、スポーツ業界におけるセクハラ予防を強化する
- 被害者が早急に被害を報告することを促す
ストップ・セクシュアルハラスメントの専用ウェブサイトも設け、犯罪関連情報や被害者に有益な情報を見つけられるようにしている。(stop-harcelement-sexuel.gouv.fr)他に、3種類のポスターが職場に関連するイメージ(コピー機、給水機、エレベーター)を表現している。それぞれに潜在的なハラスメント行為者に向けたメッセージが書かれており、具体的な世界観を通じて新しい法律の輪郭を訴求している。
キャンペーンは2012年11月12日から25日まで、テレビ、雑誌、インターネットなどで打ち出される。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今回は、このプレスリリースでも紹介されているストップ・セクシュアルハラスメントの専用ウェブサイトに記載されている情報をご紹介したいと思います。
リンクはこちらです。
http://stop-harcelement-sexuel.gouv.fr/
セクシュアルハラスメント:これからは法律があなたを守ります
職場や教育現場で8%が性的暴行、25%が不当な行為を受けています。
同僚の皆さんへ |
同僚の皆さんへ |
同僚の皆さんへ |
何を目的とした法律か
2012年8月6日制定のセクハラ法では定義をより明確にし、セクハラ違反の範囲も広くしています。課せられる罰も重くなり、セクハラ被害者への差別を抑制することを狙っています。
この法律は職場でのセクハラをさらに強固に予防するものです。目的は以下の4つです。
- 違反を予防すること
- 被害者に事実の速やかな告発を促すこと
- 周囲の人々に目撃したハラスメントへの証言を促すこと
- より重い罪で罰すること
セクハラとは?
法律では二通りの意味があり、何度も繰り返される行為、またはセクハラと見なされる一度限りの行為を指しています。
セクハラは一人に対し繰り返し、次のような性的意味合いを含んだ態度を押し付けることであるとしています
- 品位を落とすまたは屈辱的な態度で人の尊厳を傷つける態度
- 人を脅すなど、敵意ある、攻撃的態度
この他に、自分のため、あるいは第三者のために、性的行為を強要するなどの重度のプレッシャーをかけることは、繰り返しの言動でなくても、セクハラと見なされます。
新しい法律は誰でも(同僚、上司、教官、あるいは、スポーツ業界、別の組織の業者等々)こういった行為の対象になりうるとして、あらゆる状況を網羅しています。
これからは、性的意味合いを含んだ繰り返しの態度が、被害者の尊厳を傷つけたり、脅したり、攻撃したりしたかどうかで、セクハラに当たるか否か判断されます。性的行為があったかどうかだけではありません。
課される罰は?
刑法上の処罰
セクハラは違法です。セクハラであると判断されれば、禁固2年と罰金3万ユーロが課されます。この処罰はこれまでの処罰のほぼ2倍の重さです。
よりひどい事件では、禁固3年と罰金4万5千ユーロが課されます。それは以下のような場合です
- 警察等の職務を妨害した場合
- 15歳以下の未成年者に対する事件だった場合
- 年齢、病、身体障害、肉体的精神的欠陥のある場合や、妊娠中など、弱者であったと明らか、あるいは行為者がそれを知っていた場合
- 経済的、社会的に弱い立場にある、あるいは、依存する立場にあると明らか、あるいは行為者がそれを知っていた場合
- 複数人が行為者、あるいは共犯であった場合
懲戒処分
セクハラ行為をおこなった民間企業の従業員は誰でも懲戒処分を科されるべきで、解雇になることもあり得ます。
公的機関の従業員も、同様に処罰されます。
被害者の補償
セクハラの行為者は被害者に損害賠償を支払わなければならないことがあります。
セクハラに続いて行われる差別に対する処罰
2012年8月6日の法律の新たな要素は、職場であってもなくても、セクハラに続いて行われる差別を罰することです。
たとえば以下のようなことは法律により罰せられます
- 利益やサービスの提供を拒むこと(例えば、アパートの賃貸を拒むことや、ディスコなどの公的な場所への出入りを拒むこと)
- 採用を拒む、人員の処罰や解雇など
なお、職場においては、研修中の人材についても、差別禁止の原則と差別への処罰の原則が適用されます。
企業におけるセクハラ予防
2012年8月6日の法律ではセクハラ関連のリスクを考慮するよう言及していて、職場でのセクハラを抑えるべく、その法律があることを職場や採用面接が行われる部屋とその扉に掲示することが雇用主には課されています。
さらに、予防策として雇用主は、セクハラへの理解を向上する研修、ハラスメント案件を確認することを目的とした研修など、あらゆる周知対策や注意喚起をすることができます。
セクハラ予防に関する雇用主の責務
セクハラに関する説明は必ず、職場や採用面接が行われる部屋とその扉に掲示しなければなりません。
内部規定の策定は従業員規模20人以上の企業で義務づけられていますが、企業の規模にかかわらず、雇用主は従業員の健康を守らねばならないので、雇用主は予防や安全の責務と同じように、セクハラについても準備をしておく必要があります。業務連絡、メール、職場の掲示板などを活用して予防することができます。
会社でハラスメントがあった場合、誰にコンタクトするか
被害者でも証人でも、企業のトップか所属部署の部長、人事部等へ通報できますが以下の代表者らに助けを求めることも可能です。
- 従業員10人以上の企業では人事部の代表者
- 従業員50人以上の企業では労働組合の代表者
- 従業員50人以上の企業では企業の管理委員会
- 従業員50人以上の企業では労働衛生安全委員会 セクハラ被害者である場合は産業医や労働監督官へ連絡することも可能です。
外部のコンタクト先はどこか
司法人権センターか裁判所の分室に連絡をすることができます。人権に関するプロフェッショナルや被害者サポート団体などにも相談ができます。場所は自宅の近くの裁判所か市役所、インターネットなどで調べられます。
被害者サポート団体では、身体的、物質的、精神的な傷を負った被害者の話を聴き、情報提供や助言をしています。
ハラスメントをどのように立証すればよいか
ハラスメントは告発する時期が遅くなればなるほど、負った傷を立証することが難しくなります。
重要なのは、できるだけ早くハラスメントの事実を立証することです。
- 軽罪裁判所(刑法)では証拠は「自由」*で、一連の証拠をひとまとめにして立証すればよい、とされています。
*「自由」とはつまり、証拠がどんな手段で報告されてもよいという意味。当人が記録されていることを知らされていない記録も含まれる。 - 民事裁判所(民法)、特に労使調停委員会では、被害者はセクハラがあったとされる事実を立証しますが、それに対して、もう一方の人または企業は、それらの事実がハラスメントではなかった事実を証明する、またはハラスメントと関係のない理由によるものだったと証明する必要があります。それが出来ない場合、その人、企業は罰せられます。
刑事訴訟でも民事訴訟でも、被害者はセクハラと思われる事実を保管し、示さなければなりません。
(以下のリストは一部の例です。完全なリストということではありません。) - メール、SMS、手書きのやりとり
- 雇用主との手紙のやりとり
- 医師(産業医も含む)の診断書、休養証明
- 昇進や報償、研修拒否の痕跡
- 事件届けのコピー
- ポルノ雑誌等、机上に置かれていたもの
- 詳細な内情を知り得た人々(労働監督、同僚、両親、友だち、組合員など)の証明書
- 被害者が、以前セクハラが原因で退社したと聞いたことのある元従業員らの名前
労働法では、セクハラを告発した従業員の処罰は禁止されているため、労使調停委員会で書面による公的な告発をした従業員は保護されます。
告発する場合
セクハラの被害者は起訴する事も可能です。証拠を集めるため、なるべく早く効率的に行う必要があります。
セクハラ行為の法的期限は3年で、被害者は最寄りの警察や検事に直接連絡をすることができます。
セクハラの証人である場合
証人もその立場を法律で守られています。何の手続きもなく、同僚、上司、人事部、社長、組合、産業医などに知らせることができます。被害者に証人自身の記録を提示する事も可能です。
(2013年2月)
その他記事
- 第10弾 職場いじめの防止~いじめの現状と対策~ エヴリン・フィールドさん(その2)
- 第9弾 職場いじめの防止~いじめの現状と対策~ エヴリン・フィールドさん
- 第8弾 フランスのセクハラ法(ストップ・ハラスメントキャンペーン)
- 第7弾 フランスの法律に見るモラルハラスメント ルイック・ルルージュさん
- 第6弾 パワハラ上司のエグゼクティブ・コーチ リン・ハリソンさん
- 第5弾 デンマークのパワハラ予防第一人者 エヴァ・ジェムシュー・ミケルセンさん
- 第4弾 パワハラ上司を調教する!ローラ・クロショウさん(その2)
- 第3弾 パワハラ上司を調教する!ローラ・クロショウさん
- 第2弾 インド社会における職場のいじめの現状 プレミラ・ドクリュズさん
- 第1弾「職場のいじめとハラスメント国際学会・参加レポート」