ビジョナリー対談株式会社内田洋行 柏原 崇氏

Vol.01 株式会社 内田洋行 代表取締役社長 柏原 孝 氏 気持ちを伝えること、言葉で言い表すことの難しさを超え、新しい時代の働き方と働く場を作り出す

内田洋行は自ら実践した「Change Working」というプロジェクトで、働き方と働く場を変革し、ビジネスそのものを大きく進化させました。その成果を「働き方の変革支援」と「働く場の計画支援」というサービスで提供しています。クオレ・シー・キューブは職場では上司と部下が共に考え、共に共に価値を作りだしていく「共創時代のマネジメント」を提唱しています。内田洋行社長柏原孝氏に「Change Working」の要点、マネジメントに対する考え方をクオレ・シー・キューブ代表岡田康子が聞き、両社に共通するポイントを明らかにします。

みんなが活き活きと働ける環境を企業がどのように考え、どう作っていくのか

岡田康子 クオレ・シー・キューブ(以下、岡田):
クオレ・シー・キューブは、メンタルヘルス相談とハラスメント相談、その予防のための研修などのサービスを提供し、2014年で25周年を迎えました。振り返るとこの25年の間、ハラスメント対策は、一般的に企業のリスクマネジメントの1つとして、社員の行動を規定するものという形で捉えられてきました。しかし、そうした状況は一段落し、今後はみんなが活き活きと働ける環境を企業がどのように考え、どう作っていくのか、ということがテーマになってきています。

こうした変化を捉え、クオレ・シー・キューブは職場のみんなが共に考え、共に新たな価値を作り出していく
「共創時代のマネジメント」を提唱し、それを支える職場づくりを支援しています。
そうした中で、内田洋行様が自ら取り組んでこられた職場環境の変革、協創の場作りというコンセプトを知り、注目してきました。

柏原 孝氏 内田洋行(以下、柏原氏):
内田洋行は「Change Working」というプロジェクトを自ら実践し、働き方と働く場を変革しました。その成果を元に「Change Workingコンサルティングサービス」というサービス名称で、お客様に「働き方」と「働く場」を相互に同期して変革するコンサルティングや診断などのサービスをご提供しています。このサービスの目的は、創造性を発揮できるチームの形成、業務効率の向上、俊敏な組織風土の醸成の実現です。
グローバル化やICTの浸透など経営環境が大きく変化する中、企業において知的生産性の向上というテーマが着目されてきたことが背景にあります。もともと内田洋行では1989年に企業内研究所である知的生産性研究所を設置して以降、オフィスとコミュニケーションワークスタイルとオフィスとの関係性の研究を進めてきました。その研究をベースにして、さらに発達の目覚ましいICTを綜合的に活用できる「場」をデザインすることで、オフィスワーカーが、業務内容に最適な「場」を自ら選んで仕事が行えるようになる。この自由度を高めることで人は創造性を発揮できるようになり、ICTによって情報共有も進んで効率も上がる。この活動とサービスは、こうした新しい働き方、新しいオフィスの在り方を考えることから始まりました。
しかし、問題は、そこで働く人が自らを変えようと考える、変わっていきたいと願うという部分がない限り、継続する自律的な変革にはなり得ないということです。そこで、人が自ら変わろうとすることを場面が助けていくという考え方に基づいて進めたのが「Change Working」プロジェクトで、社員が自ら参加して、自分たちがどうありたいのか、仕事はどうあるべきなのかの姿を描き、その姿に自身と仕事を近づけていこうとする運動でありました。

伝統的にダイバーシティーの価値観を大切にする内田洋行

岡田:
内田洋行の社員で杉に魅せられて、杉林の保存や活用をすすめる全国的なイベントや活動をサポートする地域活動をやっている方がいらっしゃいますね。それが事業活動に繋がり、本社の「ユビキタス協創広場CANVAS」のあるこの新川本社にも、杉の木を用いた家具がありますが、それがオフィスの暖かみを作り出していますね。
こうした例を見ると、会社の枠を超え、社員としての役割に留まらず、自分がやりたいことを実現する環境が内田洋行にはあるのかな、と思っています。

柏原氏:
それは極めて強い目的意識と仕事観を持っている社員の取り組みで、社会的意義を追求している活動です。今は、そうした社員の活動と内田洋行の活動が同期し始めた段階だと考えています。
内田洋行は、社員のそうした活動を受け入れる素地を持っており、自由のある会社です。これは代々の経営者が、受け継いできた伝統のようなものです。

岡田:
多様な価値観や活動を受け入れる職場、企業がイノベーションを起こすと言われています。そういう意味で、内田洋行様には多様な価値観を受け入れる素地があるのでこれからが楽しみですね。

柏原氏:
今、求められているのは、人がどういう時に能力を発揮するのかを考えること、人の持つ能力を遺憾なく発揮できる場を作ることだと思います。
いつも同じ場所で同じ椅子に座らせている社員に向かって、会社が「なにか新しい発想をしろ、従来にない何かを産み出せ」と言うのは何か違和感がありますね。
社員が創造性を発揮することが、企業の創造性につながるとすれば、もっと自由度を高めなければならないのだと思います。オフィスはその重要なフィールドになるわけです。そのフィールド如何によって、創造性は個人に留まらずまわりとつながり、職場をより人間中心に整えていくようになってきています。

職場は舞台であり、社員はそれぞれ主役である

岡田:
長年、私たちはパワーハラスメント対策をお手伝いしてきました。その経験から思うのは、パワーハラスメントは閉鎖的な状況で「従来型の力強いリーダー」でありたいという考えに囚われた人が起こす例が多いということです。
時には強く人をリードしていく上司という役割も必要ですが、必要とされるのはそれだけではありません。いろいろな他の役割があることを理解してもらうために、演劇的な要素を取り入れたプログラムを展開しています。
これは、職場をひとつの舞台と考えて、如何に舞台を演出するか、また、そこで働く社員が、それぞれの役割を如何に豊かに表現しきれるかどうかで職場のパフォーマンスは変わるという考え方を基本に置いたものです。

柏原氏:
そうですね。オフィスは舞台でもありますね。中には、 “ソリューションの体感”“プロジェクトの実践” “お客様とのビジネス創出”などからオフィスを「舞台」にするというコンセプトを考案されたお客様もいらっしゃいます。
職場は舞台であり、社員は演者として舞台で十分に能力を発揮するという考え方によって、社員の当事者意識を高め、ワークスタイルの変革に取り組んだ一例です。

岡田:
演じきることで、必ず自分の中の何かを発見することができますね。私たちは演劇の要素を取り入れたプログラムで共感力、観察力、そして表現力を身に着ける演習を行います。そして、いままで「コミュニケーションを良くしようというけど、どうしたらいいかわからない」という課題に対して「コミュニケーションの見える化」を行っています。
面白いことに、「どうなっているんだ」という一言でも、いい方によっては、相手を責める表現にも、自分が不安になっている表現にもなります。でも本来は、原因を客観的に探るような姿勢、表現が必要なはずなのですが・・・

柏原氏:
「見える化」という意味では、管理職の思想、考えの見える化が必要でしょう。
経済や社会状況が大きく変わり、決まった方法で人を活用することでモノが売れる時代は終わりつつあります。人の意志や個性よりもとにかくみんなが同じ方法に取り組めば売り上げがあがるという時代では、目標達成によって一体感が生まれました。しかし、現在は従来のやり方に固執していては数値目標を達成できる時代になく、それぞれが創意工夫をして考えなければなりません。そうした中で、従来にように決まった方法で人を活用するとミスマッチが生じ、その結果、人によっては疎外感すら感じる懸念が出ます。
また、インターネットなどによって、非常に多くの情報を容易に得られるようになった情報過多の環境では、上司が必ずしも情報を多く持っているということはなくなり、上司と部下という関係や組織が業務を通じてフラットになってきています。
このように環境が変化した後の世界では、管理職の役割や演じ方は変わらざるを得ません。この点で「変わらなかった人」が少し問題になっているのだと思います。

女性の視点で考え、主導して推進したプロジェクトが産み出した成果

岡田:
クオレ・シー・キューブは女性活躍推進の取り組みで、DIW(Dynamic innovation by women)という活動を研究会と塾の形で開催しています。これは、「新たなビジネスや商品を創造する女性の育成」「企業内で高い地位、影響力のあるポジションにつく女性の育成」を支援するものです。
この取り組みに、内田洋行様から女性社員の方に参加いただいています。とてもエネルギーのあふれる方々で、活発に活動されておられますね。これからはこうした女性が活躍できる時代になるのだという確信を深めています。
内田洋行様では、女性社員の方が率先して進められたプ
ロジェクトに、「POTHOS(ポトス)」があるとお聞きしています。

柏原氏:
プロジェクト「POTHOS(ポトス)」は、有志女性社員が自らの意思で立ち上げた「もっと会社をよくしたい」という思いを共有して、自分たちで決めたテーマにそって様々な活動をしてくれています。役員もしっかり後押しして、2012年からは社内のプロジェクトに至りました。この会議には社長として参加しましたが、女性の「問題指摘が明確であること」「言い切る力が強いこと」にとても驚きました。
理解を深めたのは、女性の特性と、女性が必要することが男性とは異なるということでした。

この女性チームから出たキーワードは防災でした。もっと防災の意識を高めたいという彼女たちの思いは、社内の防災レベルを引き上げるだけでなく、個人用備蓄ボックス「そなえさん」という商品をも生み出しました。着眼がよいのでしょう。驚くことに大手企業様から個人の方まで短期間で大変多くのご用命を頂戴するヒット商品となっています。
例えば、一般に東京にある企業ですと都条例に決められた3日分の防災備蓄はオフィスの近くのどこか1カ所に収納しておくことになります。しかし、それでは災害が起こった時に収納場所に取りに行くことが不可能になること、女性は一般に備蓄されているものだけでは困ること、という明確な問題指摘がありました。
そこで、自分が普段働いている身近な場所に邪魔にならないように自分自身で必要なものを備蓄する、自分で中味を入れ替えることができ常にフレッシュな状態が保てるもの。かつ、まとまった収納場所を不要とし、いざという時にほんとうに役立つ「個人用防災備蓄ボックス」のコンセプトが生まれました。
彼女たちは、実際の製品化にあたっても、消防庁への確認、製造工場との折衝などをすべて自らで行うなど実行をともなっており、ヒット商品になっています。彼女たちの高い意欲がこうした結果を導いたことに、私もたいへん驚きました。

岡田:
女性の持つ生活者としての視点、また、一人の人間として持っているリアリティが「個人用防災備蓄ボックス」という新しいプロダクトを産み出したということですね。

柏原氏:
私は従来、職場での女性活躍支援を男性と同じように女性が働くことができるようにすることだと思っていました。しかし、違いますね。そうではなくて、女性の持つ特性を活かした視点や行動力を活かすことが、女性活躍支援なのだと教わりました。
今では、価値観や生活感が女性と男性とでは異なること、このポイントを上手に会社の中で活かしていきたいと強く思っています。

岡田:
男性は思考や論理によって自身を統べる傾向が強いのでしょうけれど、女性はより身体や感情とより深く付き合って生きているところがあるので、リアリティを持った商品や事業提案ができるのかもしれませんね。
実際に研修で男性に対して課題を提示すると、問題点の指摘は的確なのですが、「どう感じていますか」という問いには答えが返ってこない場合があります。さらに「自分が感じていることを相手に伝えてください」というとさらに何も出てこなくなります。
女性と男性では、その特性に根本的な違いがあるのかもしれませんが、トレーング不足という面もあります。女性はこれまで組織のなかでのリーダー的な役割が求められず、論理的な説明が必要なかったという面があり、男性は感覚や感情に目を向ける機会が少なったこともあると思っています。

時代にあったリーダーシップと人材育成

柏原氏:
変化の激しい時代においては、「どこになにが、いつまでに必要なのかを決める」のがトップの責任だと考えています。
内田洋行の社員は真面目です。私は信頼していますし、決定したら、しっかりと進めてくれます。
したがって、トップダウンで行うのは、方向性を示すこと、期限を切ること、この2つです。ただ、これも限られた時だけです。常にトップダウンだと、社員が考えなくなってしまいます。
組織には人の組合せの妙が大きな影響を与えますから、同じようなタイプの人が集まってしまわないように常に気をつけています。ですから、私のような楽天的なタイ
プが決めたら、後は細かくサポートしてくれる社員を信じて任せていく、という形にしています。
組織が一色に染まることは短期的にはプラスになるところが確かにあります。しかし、中長期的にはマイナス面も出ると思います。

岡田:
自分の役割を理解し、特性を知った上で、サポートしあえる人の組合せを考えていくことが良い、ということですね。
内田洋行様とクオレ・シー・キューブはまったく異なる分野の仕事をしていますが、人を中心として、人が元気に個性や良さを活かしながら、どのように働いていけるのかを、一人ひとりではなく職場全体のこととして考えているという点で、近いところを目指しているという共通点を感じました。

柏原氏:
東京大学大学院で工学系研究科機械工学専攻特任教授の中川聰氏さんが“期待学”という新領域の研究をしていらっしゃいますが、その中川先生に「人はどうやったら変われるか」ということをお尋ねしたことがあります。すると「意識することは人間にしかできない」とおっしゃって、「本当に変わろうと思ったら常に、変わるということを意識し続けていること」が大切になるというお答えをいただきました。役割の理解とともに、人には意識を持ってもらう、意識を変えてもらうということが大事ですね。

私は、新入社員に、お目にかかった方には葉書でお礼の気持ちを形にして伝えるということを勧めています。気持ちを伝えるということはたいへん難しいことですが、葉書一枚でそれができるという考えで、私自身も当社で学び、今も実践しています。
この葉書からうまれた人との関係については、社員向けブログで「伝えることの難しさ、伝わることの喜び」という題名で記事にして社内に公開しました。
伝わらない苦しみを経験して、伝わらないことを嘆くのではなく、伝わった喜びを感じること、成功するイメージを社員のみんなで共有していくことの重要性を書いています。

伝わる喜びは自信につながります。ですから、「伝わる喜びを意識できる」ように、経験していく機会を与えていくことが大切であり、その場を作り出すのが管理職の大事な仕事だと考え、私自身もそう意識しています。

岡田:
本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

(2014年3月14日 内田洋行本社ビルにて対談)

株式会社 内田洋行

内田洋行は1910年(明治43年)、測量・製図機器の満鉄御用商として大連に創業。
戦前の計算尺販売で事業を拡大し「マジックインキ」や「ケント製図器械」などの事務用品も生み出した。1948年に学校向けに科学教材を販売して教育分野に、さらに1962年に純国産初の超小型計算機『USAC』を開発して情報産業にも事業を拡げた。
現在は「公共」「オフィス」「情報」の特色ある事業を持ち、オフィス事業では働き方変革のコンサルティングを推進中。

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