海外のパワー・ハラスメント対策
- Q日本ではパワー・ハラスメントという言葉はすでに一般に知られるようになりました。海外でも同様の現象があるのであれば、どのような対策がとられているのでしょうか。
- A
パワー・ハラスメントという言葉は弊社が2001年ごろに生み出した和製英語です。「職権などのパワーを使ったいじめ・嫌がらせ」という現象のことを言いますが、海外では同様の現象を「mobbing」「bullying」「moral harassment」などと呼び、先駆的に調査・研究が行われてきました。その結果その行為を防止・規制するための立法もなされています。
レイマン博士らの調査を受けてスウェーデン政府は、1993年に「職場における虐待に対する措置に関する政令」を制定しました。その後2003年に「差別禁止法」2005年に「平等待遇法」を制定され、労働関係においてハラスメントが禁止されています。
同様の現象をイギリス及び英語圏では「bullying」と呼びます。元々の意味は「(子供同士の)いじめ」というものでしたが、1992年のアンドレア・アダムスの著書「職場のいじめ-その傾向と対策」の出版により、「職場におけるいじめ」についても「bullying」と呼ぶようになりました。イギリスでは1997年に「ハラスメント規制法」が制定されましたが、コミュニティーの安全を図り、反社会的行動を規制するために制定されたもので、職場におけるハラスメントに限定されてはいません。
フランスでは精神科医であるマリー・フランス・イルゴイエンヌが、1998年に出版した著書「モラルハラスメント-人を傷つけずにいられない」の中で職場の精神的暴力・虐待について「moral harassment」と名づけたことから、職場のハラスメントが大きな注目を浴びることとなりました。結果2001年に成立した「社会的近代化法」の中にモラルハラスメントの禁止が盛り込まれることとなっています。
他ヨーロッパでは、フランスの影響を受けてベルギーでも2002年に「職場における暴力・モラルハラスメントおよびセクシュアル・ハラスメントからの保護に関する法律」が制定され、それとほぼ時期を同じくして、オランダ、フィンランド、アイルランド、デンマークでも職場のいじめ・嫌がらせ、精神的ハラスメントを規制する立法がなされています。
ヨーロッパの各国でのこういったハラスメント規制の動きは、EUやILOといった諸機関にも大きな影響を与えています。
ILOは2006年に出した報告書の中で「職場における暴力やいじめは流行病的レベル」だと報じています。EUも1996年と2000年に大規模な職場における身体的暴力、いじめ、セクハラ(セクシャルハラスメント)についての調査を実施しており、その結果を公表しています。
また、LGBTQ+の認知が広がっていく中で、多様性の尊重という観点からもハラスメント対策の必要性が高まってきました。2011年に国連人権理事会は性的指向と性同一性を理由とする暴力や差別に対する決議を採択しています。また、2017年から現在に至るまで続いている#metooのムーブメントは、2019年にILOで採択された「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃の関する条約」策定につながりました。
こうした流れを受けて、日本においても、2022年4月にすべての事業主に対してハラスメント防止の措置義務が課されるようになりました。
このように、職場のハラスメント問題は世界中の職場の課題として認識されており、各国ともども課題解決に向けた法律の制定や対策強化に取り組んでいます。
日本においても、カスタマーハラスメントなどの議論が今後も続き、法律についてもさらに進化していくことでしょう。
(参考文献)
水谷英夫「職場のいじめ-パワハラ(パワーハラスメント)と法-」 信山社(2006)
水谷英夫「職場のいじめ・パワハラと法対策」 著民事法研究会(2008)
大和田 敢太 「労働関係における「精神的ハラスメント」の法理:その比較法的検討」 彦根論叢 第360号(2006)
(2010年、2024年)
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