モラルハラスメントとは?
- Q最近【モラル・ハラスメント(モラハラ)】という言葉をよく耳にしますが、どのようなことを指しているのでしょうか。また、パワハラ(パワーハラスメント)とはどのような違いがあるのでしょうか。
- Aモラル・ハラスメント(以下モラハラ)とは、フランスの精神科医であるマリー=フランス・イルゴイエンヌ氏が、1998年に刊行した「モラル・ハラスメント ― 人を傷つけずにはいられない」(邦訳:紀伊国屋書店)で提唱した概念です。一言で表現するならば、<言葉や態度によって相手の心を傷つける精神的な暴力>ということになります。
精神的な暴力とは、心理的な攻撃が何度も繰り返されることにより、被害者の心身の健康に悪影響を与えることを指しています。 モラハラの加害者の特徴としては『自己愛的な変質者』であるとし、自分を守るために周りの人間を傷つけても罪悪感を持たなかったり、責任を他人に押し付けたりするなど、他者への攻撃性が見られます。一方、被害者の特徴としては、几帳面で責任感が強く、何かあると‘自分が悪かったんじゃないか?’と罪悪感を持ちやすいといわれています。
また、イルゴイエンヌ氏が提唱するモラハラの範囲は職場にとどまらず、家庭なども含めたあらゆる日常生活に潜んでいる、としています。イルゴイエンヌ氏は精神科医としてこの問題に早くから取り組み、時に被害者を自殺にまで追い込むこれらの精神的暴力は、肉体的な暴力よりも深刻であり、犯罪行為であると述べています。
この言葉が日本で急速にこの言葉が広まったのは、弊社がパワーハラスメント問題を提唱した2001年~2002年ごろです。弊社が提唱したパワハラは、当時の定義の中に「職権などのパワーを背景に」という言葉を盛り込んだことから、‘パワハラ=職場の問題’という認識が広まった結果、日本では一般的に‘モラハラ=DVなどの夫婦や家庭の問題’というように認識が広まっているようです。
しかし、フランスでは2002年に、労働法のなかにモラル・ハラスメントに関する条項が付け加えられています。その中では<いかなる給与所得者も、勤労者の尊厳を傷つけ、屈辱的で劣悪な労働条件を作る目的で行われる、あるいはその効果を持つモラル・ハラスメントの行為を、雇用者から、もしくは組織の代表者から、そのほか職務上権力を有して、その権力を濫用する人物から、繰り返し受けることがあってはならない>と記されています。日本では、パワーハラスメントという文言に関わる法律は存在しないことを考えると、職場のハラスメントへの対応は、フランスのほうが一歩進んでいるといえます。
ところで、パワハラとモラハラの違いについて、整理すると以下のようになります。
パワハラ | モラハラ | |
---|---|---|
どこで起きるか | 職場 | 職場や家庭など |
内容 | 精神的、肉体的暴力や暴言 | 精神的な暴力(差別や肉体的暴力は除外) |
加害者/被害者 | 誰でも加害者、被害者になる | 自己愛的、他罰傾向/几帳面、自責傾向 |
上記以外のポイント(組織や個人がどのような悪影響があるかなど)は、ほぼ同じことを言っており、職場のモラハラの定義として、イルゴイエンヌ氏は『被害を受けた人の尊厳を傷つけ、心身に損傷を与え、その人の雇用を危険にさらすこと。また、そういったことを通じて職場全体の雰囲気を悪化させること』としています。
一方、弊社のパワハラの定義は2010年に改変し、現在は以下のようになっています。
職務上の地位又は職場内の優位性を背景にして、本来の業務の適正な範囲を超えて、継続的に相手の人格や尊厳を侵害する言動を行うことにより、就労者に身体的・精神的苦痛を与える、又は就業環境を悪化させること
実は、2004年に弊社の代表取締役である岡田康子と、モラハラの提唱者であるイルゴイエンヌ氏が会談したときには、「職場に限定して考えると、ほとんど同じことを言っていますね」ということで合意しています。全く違う国で、違う言語や文化で育まれた2つの概念が、実は同じ問題を指摘しているというのは、大変興味深いことです。つまり、グローバル化がどんなに進んでも、働く人の人格や尊厳を傷つけるような言動は許されない行為である、ということでしょう。
<参考文献>
『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』
著者 マリー=フランス・イルゴイエンヌ (訳)高野優
紀伊国屋書店発行
(2010年)
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