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時効を理由に事実調査を拒否することはできるのでしょうか?

Qハラスメント問題の時効という考え方について、質問です。例えば、5年前のパワハラ(パワーハラスメント)が原因でうつになったので加害者を処分してほしいといわれたとき、時効を理由に事実調査を拒否することはできるのでしょうか。
A最近相談窓口には、ご質問のようにかなり以前のパワハラ問題について「うつ病になったのは、数年前のあの上司のパワハラのせいなので、処分して欲しい」という訴えが増えているように感じることがあります。このような時には、「時効」という考え方が適用されるのでしょうか。

法律的に考えれば、民事裁判での不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知ったときから3年で時効ということになります。これに照らし合わせれば、相談者がハラスメントの被害を受けて3年以上経過している相談については、一見時効の成否を検討することが必要であるとも思います。ただ、実際にはもっと詳しく被害の状況を調べる必要があります。

例えば、ハラスメントの被害によってうつ病その他の後遺症が出た場合、その時点が時効の起算点となりえますし、被害者が、パワハラやセクハラ(セクシャルハラスメント)が原因で被害を受けた時点から中断せずに月に1度程度の通院を続けていれば、その問題が解決せずに継続していると判断される可能性もあります。

また、ハラスメントの被害者が仮に会社を相手に裁判を起こした場合、雇用契約に基づく債務不履行を用いて会社に対しての責任を問う場合には10年間認められることになります。

さらに加えれば、時効制度とはそもそも時効を主張する人が、時効を援用することで初めて効力が発生することになりますし、そもそも、民法上、時効を主張し得る状況であることと、事実調査を行わないでよいかどうかの問題は、必ずしも、論理的に、同一であるわけではありません。

このように考えると、窓口担当者が安易に「3年以上も前の話は、もう時効ですよ」などと相談者に伝えてしまうことはできないでしょう。雇用関係がある以上は、会社には職場環境調整義務があるので、それに沿って責任を問われることになるからです。

そして、何よりも「時効という考え方」を窓口担当者がちらつかせた時点で、相談者の会社に対する不信感が倍増するということを、肝に銘じなければなりません。何故なら、被害者にとって時効とは「早く会社に相談しなかったあなたが悪いんです」と会社に言われるようなものです。安易に「時効」という言葉を使えば、二次ハラスメントになりかねません。

一方で、現実的に事実調査が難しい場合もあります。関係者が既に異動や退職している場合、本当に数年前の出来事について会社が事実調査するのが、相談者のその後の会社生活にプラスになるのかどうか、被害者と充分に話し合う必要があるでしょう。特に、うつ病を発症している場合などは、事実調査中にかえって症状が悪化してしまうことも考えられるので、必要に応じて産業医と相談するなど、社内の連携も必要です。

また、会社として、どの程度さかのぼった事案まで調査すべきとするかについて、一度検討しておく必要があろうかと思います。

(第三期 ケース研究会 弁護士菅谷貴子先生のコメントを引用しました)

(2012年)

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