ハラスメント相談の現場からVol.5 “スローガン”の裏にある悲劇

Vol.5 “スローガン”の裏にある悲劇

このところ、大々的な紙面の文字が目にまぶしい『女性活躍推進』ですが、渦中にある女性や周囲の人たちの本音や嘆き節に耳を傾けてみると…。
先日こんな相談がありました。相談者は入社以来10年余、もてる能力を最大限発揮するべく真面目に頑張ってきた報いとして昨秋、昇進を果たした女性管理職第一号のAさん。自分なりに培ってきたノウハウを部下たちに伝授しようと、わき目もふらず全力疾走してきたこの10か月でした。そのAさんのもとへ数日前に次長から伝えられたのは、「指導の範囲を超えており、人間扱いされていない」、「パワハラ(パワーハラスメント)ではないか」とのクレームが複数の部下たちから上がってきているという衝撃の事実でした。確かに部下が思うように動いてくれず、イライラ、カリカリして語気荒く叱責したこともあったとのこと。Aさんの悩みとも愚痴ともしれぬ話を聞いているうち、浮かんできたのは「初の女性管理職として絶対に失敗は許されない」、「会社の期待に立派に応えなければ」という痛々しいまでの覚悟と重圧に尾羽打ち枯らした姿でした。
果たしてAさんはパワハラの“加害者”なのでしょうか?「初○○」、「△△第一号」と冠が付いて、プレッシャーを感じない人、張り切らない人は、まずいないでしょう。さらに上を目指そう、もっと貢献したい、との意欲に拍車がかかり、それを周囲(部下)と共有するつもりが、いつの間にか強要するに至る成り行きも容易に想像できます。なぜなら、冠が示す通り、彼/彼女らには目指すべきロール・モデルがないため、自ら道を切り開いていかねばならず、Aさんの例では独自のけもの道を孤独に猛進することになってしまうからです。
企業側が事前に周到なバックアップ体制を準備し、現場の上司を含めたキーパーソンが日常的にサポートする環境が整っていたら、育つべき貴重な人材の芽を摘み取ってしまう悲劇が起きることなく、ダイバーシティの道は広々と拓けてくるに違いありません。

(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2015.07)

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