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ハラスメント相談の現場からVol.70 “行動変容”の基にあるもの
Vol.70 “行動変容”の基にあるもの
コロナ禍という果てしない大海原に放り出され、大小の荒波に浮沈する生活が長期にわたって続く中、“不要不急”を筆頭としてこれを機に、頻繁に耳にするようになった言葉があります。マスコミを通じて私たちに訴えかけられる「“行動変容”のお願い」もその一つ。衛生管理、外出の自粛、働く時間・場所の制限、などなど、ここでいう“行動変容”の内容は広範囲、多岐にわたるうえ、人それぞれ状況が異なるだけに実行は容易ではありません。
日頃から、「声が大きい」、「表現がストレートで否定的」、「結論しか言わない」など、絵に描いたような“体育会系”指導を貫いてきたAさん。Aさん自身20余年前に上司から同様の指導を受け、当時は辛かったものの今となっては「大変、感謝している」体験に基づき、自らの部下指導には自信をもっていました。そんなAさんが部下数名から“パワハラ”と訴えられたからショックは隠せません。「声を小さくします」、「優しい言い方に変えます」、「丁寧に説明します」と“行動変容”を宣言しました。さすが体育会系を自認するだけあって、方向転換も鮮やかなものです。
さて、Aさんは早速、“行動変容”を実践してみました。そして数か月後の成果は…、というと、「声のトーンを落としてみたら、しゃべる速さまでゆっくりになったし、考えながらしゃべるようになった」、「優しい表現って何?って自分の中に単語を探しても見つからない。そうか、相手の良いところを見てやろうと思ったら、案外、良い所って誰にでもあるもの。それを伝えれば良い」、「結論しか言わなかったのは、説明が下手なのがバレるのがイヤだったから…(苦笑)。今は、何が分からないか相手に教えてもらうようにしている」。まとめてしまえば、造作ないことのように聞こえますが、ここに至るまでは茨の道だったそうです。曰く、「自分を変えるにはプライドをかなぐり捨てるしかない」と決意し、「どうすれば部下の信頼を回復させることができるかに集中した」とのこと。Aさんの捨て身の試行錯誤が信頼回復の達成につながりました。
特筆すべきはAさんの一見単純かつ表層的とも思える行動変容の内容がすべて自身の内面の課題への深い気づきにつながっている点です。「声を小さく」は、デシベルを下げるに留まらず、その時々に生じていることに気持ちを向け落ち着くことができるようになり、「優しい表現」は、単に形容詞を差し替えるのではなく目の前の相手に関心を持ち観察することで、これまで見えていなかった側面に視線を向けることができるようになり、「丁寧な説明」は、説明の言葉数を増やすことで一方的な発信時間を引き延ばすのではなく、相手から情報を得ることで双方向の会話成立につなげることができたことです。
“行動変容”の意味するところはさまざまですが、何ごとであれ目的に少しでも近づくために今、自分は何ができるのか、何をすべきか自らと向き合い問うことが求められているのではないでしょうか。
(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2021.02)
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