ハラスメント相談の現場からVol.18 人の心をつかむコミュニケーション

Vol.18 人の心をつかむコミュニケーション

酷暑は峠を越え、夜になると虫の音が心地よく響いてくるようになりました。連日のオリンピック観戦での寝不足も、これでようやく取り戻せるかもしれませんね。さて、今回はそのオリンピックでの話です。

シンクロナイズドスイミングでは、日本がデュエットと団体でいずれも銅メダルの快挙に輝きました。ヘッドコーチを務める井村雅代氏の卓越した指導力と、その並外れたスパルタぶりが話題になったのは記憶に新しいところです。一日10時間以上にも及ぶ“地獄の”特訓では、厳しい怒声が飛ぶこともめずらしくはなかったようです。ここだけ聞くと、選手たちの自主性の芽を摘みとりかねない時代錯誤の指導法と思われそうですが、それでは選手たちがついていくはずはありませんし、オリンピックメダル獲得の快挙など、無縁のものだったでしょう。あるテレビ番組で紹介されたエピソードとして、井村氏は「最近の若い子たちは昔と違ってすぐに泣く」と言い、「泣いているときは思考回路がストップしているから、落ち着くまでじっと待つ」というものがありました。 「泣くんじゃない!」と叱り飛ばしてもおかしくないシチュエーションかもしれません。「最近の若い子は根性がないからすぐ泣く」とダメ出ししたり、「泣きたいのはこっちだ」と嘆き節、恨み節を聞かせたりしがちな状況も目に浮かびます。井村氏は目の前にいる“若い子たち”を否定し、非難するのではなく、正面からしっかり受け止め、もっともその人、その場に適した対処を講じているのです。だからこそ、辛い練習が晴れの大舞台で実を結んだばかりか、世代の異なる選手たちから敬われ慕われる存在であり続けるのでしょう。 相手を否定・批判することによって生まれるのは、互いの嫌悪感や怒りや落胆です。生産的で友好的な関係は決して育まれません。井村氏は“結果を生むためには人の心をつかむ”という、何よりも優先されるべき大切な条件とその方法を知り尽くしている人なのでしょう。オリンピックという特殊な檜舞台でなくても、日常、職場で部下を教育・指導したり、チームやグループをまとめたりする際、私たちにも大いに参考になる、大変興味深いエピソードだと感じいった次第です。

(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2016.08)

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