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ハラスメント相談の現場からVol.68 感情・感覚を口にするには
Vol.68 感情・感覚を口にするには
本コラムでは、「ぼーっとする時間」や「『今、ここ』を感じる」大切さなど、私たちの生活に、「もっと感覚、感情に目を向け、頭を休めましょう」と提案してきました。今回は具体的な方法に触れようと思います。
「部下指導に難あり」、「勉強して来い」と上司から某セミナーに送り込まれたAさんと話をしていて感じたのは、理屈好き、説明好きなことです。話が滅法長くてついていくのに大変、部下たちはさぞ苦労しているだろうと同情してしまいました。
私たちは口に出す、出さないは問わず言葉を用いて考えています。その場、その時に気がついた事象への反応を無意識のうちに頭の中で言葉にしているのです。前述したAさんは、そのセミナーの場でミスを繰り返す部下への感情について講師から、その時どんな気持ちだったかと尋ねられ、「いつもこの部下はプロセスを無視したやり方をする」、「何度、注意しても人の話を聞かない」と“状況説明”し、講師が再びどのような気持ちだったのかを問いかけても、状況説明が繰り返されました。その時どんな感情が湧いていたか、自分の感情を口にすることは、Aさんにとって決して簡単ではなかったのです。セミナー終了時、Aさんは苦しそうに言いました。「つねに頭の中で言葉が回っていてどうにも止められません」。
この悩みはAさん一人のものではなく、多くの人に共通しています。思わず知らず考え事をしている、それを口に出すのが会話、私たちの日々の暮らしの有り様です。無理やり言葉を堰き止め、感情・感覚を肚で感じることは不可能でも、少し頭の中に“隙間”を広げる言葉の選択肢を増やしてみるのはどうでしょうか。
“オノマトペ”をご存じですか? 擬音語(例:ガーガー、ぶうぶう)と擬態語(例:ふわふわ、ビシビシ)を総称するフランス語だそうです。擬音語や擬態語は、日本でも大昔から存在しており、私たちの生活に自然に馴染み溶けこんでいる言葉です。同じ思考に直結していても、“オノマトペ”はどちらかというと理屈(頭)から離れ、感覚(肚)により近い言葉ではないでしょうか。
たとえば、「このスペースにしては人が少ない」v.s.「ガラガラだ」、「元気溌剌としているね」v.s.「キラキラしているね」。どうでしょうか、両方を口にしてみるとどちらが“生の感覚”をイメージしやすいか、よく分かります。前者が明確に限定しているのに対し、後者はアバウトで漠然とした広がりが感じられ、表現として自由度の高さは一目瞭然です。
実際、Aさんは件の質問への最終回答をこう表現しました、「イライラした」。「あー、“怒り”ですね」と講師の返した言葉に「いえ、“怒り”はない」と否定したAさん。ネガティブで限定された“怒り”という感情(言葉)は受け入れがたかったAさんも、「イライラ」は抵抗なくしっくり肯定できました。
思考を頭で回し始めたら、まずは言葉の洪水を「ぐいぐい」堰き止め、あるいは「ポーン」と天高く放り投げ、その時に浮かんだ感情を“オノマトペ”に置き換えたらどうなるか、という発想で遊んでみるのも一興ではありませんか。
(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2020.11)
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