ハラスメント相談の現場からVol.56 ハラスメント潰しとハラスメントフリーの “微妙な関係”

Vol.56 ハラスメント潰しとハラスメントフリーの “微妙な関係”

厚生労働省によってパワーハラスメント防止が定められた(2019.5)のに続き、『職場におけるパワハラに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案』が発表されました(2019.10)。身近な“ハラスメント”に人々の意識が向かい俎上に乗せるトレンドは、今後ますます加速していくものと思われます。問題に明確な決着をつけようとする時、法整備は一つの大事なルート開拓となることに間違いありませんが、解釈や運用を誤ってしまうと、本来私たちが目指している“ハラスメントの無い風通しの良い職場”が皮肉にも遠のいてしまう懸念もあります。

某社某営業所では所長による厳しいノルマ設定、未達者の休日出勤容認など、赤字脱出のみにフォーカスしたやり方が問題となり、本社コンプライアンス窓口に複数の部員からクレームが上がりました。聞き取り調査の結果、所長は問題があったことを認め、ノルマ設定を含めてこれまでのやり方を見直し、改善することを全部員に宣言しました。ここから所長の孤独なイバラの道が始まります。部員との信頼関係を取り戻そうと「挨拶しよう」や「休憩時間はちゃんと休もう」などのスローガンを打ち出したのですが…。コンプライアンス担当者が「その後、状況はどうですか?」と個人面談を実施した際、早速、部員から「挨拶したのに無視された」、「昼休み中に業務指示された」など所長の所業を非難する声が上がりました。いずれも、実際には「(部員の)声が小さくて気づかなかった」、「雑談から仕事の話になった」という他愛のない、本来なら問題になりえないような瑣末なことでした。しかし、いったんこじれてしまった人間関係にあっては、瑣末なことが大きな火種となることはしばしばあります。コンプライアンス担当者が、企業側の管理責任を問われないようしっかり目を光らせ再発防止に努めなければ、とフォローしたことが裏目に出てしまいました。現場では、監視する側(部員)v.s. 監視される側(所長)の残念な対立関係ができあがっていました。そこへ「問題(ハラスメント)は起きていないか?」と問われると、「そう言えば…」と思い当たるフシが必ずいくつか芋ずる式に出てきます。“ちょっとした良い変化”は容易に見逃され、“相変わらず気になること”は明確にクローズアップされてしまうという減点法は、まさに少し前まで所長が部員に対して行っていたマネジメント法だったのも皮肉なことです。 ハラスメントを根絶やしにする意気込みは、やり方一つでハラスメントフリーとは逆行することを忘れてはなりません。

(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2019.11)

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