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ハラスメント相談の現場からVol.72 マル化するバッテン
Vol.72 マル化するバッテン
生命力あふれる麗しい季節が巡ってきました。例年この時期に舞い込む新入生、新たな門出、卒業、など皆でワイワイ集まって寿ぐニュースが、コロナを筆頭として暗雲垂れこめたニュースの陰にすっぽり隠れてしまっているのは寂しいかぎりです。
「自らの部下指導にどうやら難あり」と気づいたものの、「どうやって改善すれば良いのだろう」といくら首をひねっても自力では“解”に辿り着けずに困り果てて相談してきたAさん。話を進めていくと、「難あり」については「上司や周囲からそう言われたし、そもそも自分はマネジメントが苦手だから」と漠然ととらえており、肚落ちしている様子がうかがえません。「改善するには」に至っては、「そうは言っても実は部下側にもいろいろ問題があって…」と部下への不満や憤り、果ては責任転嫁とも思えるエピソードが続々開帳される始末です。
Aさんのような相談者は決してめずらしくありません。もやもやした気持ちを抱え、とにかく誰か第三者に話を聞いて欲しいという思いは切実です。こうした人たちには、自己評価、他者評価がそろって低いという共通した特徴がみられます。「私もダメ、あなたもダメ」と無意識にどちらにもバッテンを付け、袋小路にはまってしまっているのです。そこで、「マネジメントが苦手」つまり「自分がダメ」だと思っている事象の裏に隠れているはずの「マル」を引き出すべくやりとりを重ねていくと、Aさんの「世話好き」、「面倒見の良さ」という別な一面がのぞいて見えてきました。これまでのAさんのやり方は、部下が困窮している様子を見ると「引きとって自分がやってしまい」、「結果、部下の能力を低く見積もることになって」、「そもそもマネジメントは向いていない」との結論が導き出されていました。そこに「世話好きである」という自覚の入り込む余地はありませんでしたが、つい手を出してしまうのは「困っているのに見て見ぬふりはできない」からだったと気づいたのです。「世話好き」は、やり方さえ誤らなければマネジメントに有効に生かすことができます。Aさんの場合、部下の“作業代行者”という役割を捨て、自らを“メンター的立場”と位置づけ、「距離をとって見守る」、「相手から発信されるSOSに応える」ことで以前よりも良好な関係性が築けているとのこと。Aさんは自分のバッテンをマルに変えることで、部下に勝手に貼り付けていたバッテンもいつの間にか外すことができた、と嬉しそうに報告してくれました。
毎日、否応なく飛び込んでくる胸がざわつく不穏なニュースに目をつぶることはできませんが、私たちの身近に潜んでいるささやかな“マルに化けるバッテン”を見つけだし、大きく育てていきたいものです。
(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2021.04)
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