ハラスメント相談の現場からVol.15 健全な職場で発揮される正当なパワー

Vol.15 健全な職場で発揮される正当なパワー

2016年も、そろそろ中盤の折り返し地点が視野に入ってきました。草木が大きく根を張って梅雨の到来を待つ、エネルギーに満ちたこの時期ですが、働く私たちは果たして元気でしょうか?

先日、私たちの窓口へ相談してきたAさん(40代、男性)は、この春から十数名の従業員を抱える地方の営業所を任されています。赴任後まもなく年上の部下である主任と新たな企画について意見が衝突し、双方とも思わず感情的になってしまいました。以来、主任ばかりか他の従業員までもAさんに相談することなく勝手に仕事を進めたり、Aさんの指示を無視したりするようになりました。そのことにAさんが苛だち、声を荒げて叱責することもあって、職場の空気は日に日に険悪になっているそうです。そればかりか、数日前、Aさんを“パワハラ(パワーハラスメント)行為”で社内通報するとの噂を耳にするに至り、「いったい全体、何を考えているのか」とAさんは悲憤慷慨、「以来、よく眠れません」と訴えました。

パワーハラスメントは、職権をカサに上司から部下、先輩から後輩など、力関係で上に立つ者が下に向けて行う嫌がらせだけではありません。このケースでは、Aさんの「感情的な」発言、「声を荒げた」叱責を契機に、下から上への集団で行う嫌がらせがみられます。前々から同じ現場で経験を積んでいる主任は、新参者のAさんより現場を熟知している、従業員たちとの結束が固い、地域に根づいた情報に精通している、等々明らかにAさんよりも優位に立っています。これらを背景に、「必要とされる情報を渡さない」、「勝手に仕事を進める」などの行為、さらには周囲の人間を巻き込み「集団のパワー」を駆使した行為で上司を業務遂行上、さらには精神的にも追い込むことは許されるべきではありません。しかし、“ハラスメント事案”としてどちらがクロかシロか?の判断に持ちこもうとすると、対立をさらに深め、収拾がつかなくなってしまいます。このような職場の混乱を鎮静化させるには、職場が健全に機能するようリーダーがリーダーシップという正当なパワーを発揮できる環境を整える必要があります。Aさんがまず冷静さを取り戻し、きちんと話をする(相手の話も聴く)場所と時間を作ること。件(くだん)の主任をAさんの有力な補佐として味方につけることができれば最適でしょう。こうした事態を招かないよう、異動前研修等の策を講じることも大切です。

(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2016.05)

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