ハラスメント相談の現場からVol.17 どうして○○○○なんだ?

Vol.17 どうして○○○○なんだ?

「一体どうなっているんだ?」朝一番の会議の席で営業グループのトップ、Aさんのよく通る低い声が部屋中に響き渡ります。目の前に座ってひたすら頭(こうべ)を垂れているのは新人のBさんです。「どうして返事がないんだ?」と追い打ちをかけるAさん。「何も考えていないのか?」、「…………」。果たしてAさんの発言は、 “質問” なのでしょうか?
“職場のコミュニケーション”をテーマに話し合う機会に、管理職チームからは「何を言っても響かない」、「肝心な質問に答えないで黙り込む」、「何を考えているのかさっぱり分からない」部下たちへの不満、一方の部下チームからは「こちらの言い分に耳を貸さない」、「一方的に言いたいことだけ言っておしまい」、「押し付けがましい」上司への不信が噴出することがあります。双方の話をよくよく聞いて感じるのは、その時々の状況や関係性の如何によって、同じ言葉(表現)を使っても伝わり方がまったく異なるということです。
部下が何か“問題”を起こし、「どうしてこんなことになったんだ?」と上司が言葉をかけることはめずらしくありません。書き言葉として眺めると単純で月並な一文が、声のトーン、緩急、勢い、表情、態度の違いによって、怒りに駆られた叱責にも、心配や思いやりに溢れた慰めにも、原因究明を求めるクールな探究心の表れにも、あるいは不安と絶望に満ちた断末魔のため息にもなります。言葉とは、かように変化に富んだ “生きもの” であるにもかかわらず、残念ながらワンパターンの活用しかされていないのはもったいないかぎり。「どうして○○○○なんだ?」は、使い手は「質問している」と認識(勘違い)しているのに、相手には叱責にしか聞こえないという、まさにもったいない使われ方ナンバーワンの汚名を着せられた表現です。試しにこの単純な一文を、いろいろな場面を想定し、表現方法を変えて口にしてみて下さい。果たして自分の意図した通りに伝わるかどうか、身近な人を相手に試してみてはどうでしょう?驚きの結果が…?それはやってみてのお楽しみです。

(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2016.07)

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